【第245回】

フルボイス学園恋愛アドベンチャー「ヒトナツの夢」

初夏、文化祭を目前に出会った2人の切なくも甘い物語

　インターネット上で公開されているゲームは、大手メーカーが制作・販売している大作から個人が趣味で制作し、無料で公開しているものまで、ジャンルや価格を問わず、さまざまなものが存在している。しかし、インターネット上で公開されるゲームの数が多すぎてしまい、どんな作品が存在し、どの作品が本当に面白いのか判断できずに困っている人も多いだろう。そこで“週末ゲーム”では、インターネット上でたくさん公開されているゲームのなかから選び抜いた良作を紹介していく。今回は、人付き合いが苦手な少年と独りが好きな少女、どこか似た2人が出会った夏の日々をノベル形式で描く学園恋愛アドベンチャーゲーム「ヒトナツの夢」を紹介しよう。

主人公は友人から、事故死した生徒の幽霊が出るという噂話を聞く

屋上で出会った少女“葉月瑞菜”。初対面にも関わらず意気投合する

明るく振る舞いながらも、なぜかどこか悲しい瞳を見せる瑞菜

　「ヒトナツの夢」の舞台となるのは、毎年海の日に学園祭を行う風変わりな学校“海鳴高等学校”。前夜祭前の休日、準備のために登校した主人公“須貝 俊樹”は、悪友“西原 礼治”のバンド仲間“加川 真美”と“篠井 凛”から、1年前、屋上からの転落事故で他界した生徒の霊が出たと聞かされる。話を適当に受け流し、休憩に訪れたジュース自販機の前で見かけた白猫を追いかけて屋上を訪れた俊樹は、おさげ髪の小柄な少女と出会う。彼女の名は“葉月 瑞菜”。初対面のはずなのにどこか懐かしさを感じる少女の、明るく笑いながらもどこか寂しさを感じさせる瞳が気になった俊樹は、その後も屋上へと足を運ぶことになる。

　本作は画面に表示される文章を読み進めていき、要所要所で表示される選択肢を選ぶことでストーリーが進行していく、ノベルタイプの恋愛アドベンチャーゲームだ。攻略可能なキャラクターは2人。ゲーム中は背景イラストとキャラクターの立ち姿の上に半透明のメッセージウィンドウが重なり、縦書きの本文が表示される。文章は1文ずつ表示され、マウスをクリックすることで次の文章へと進めることができる。また、画面下に並ぶボタンのなかから［AUTO］をクリックすれば、一定のスピードで文章が自動表示される“オートモード”も利用可能だ。重要なシーンなど、画面全体に表示されるイラストをじっくりと見たいときは、［■］ボタンをクリックすることでメッセージウィンドウを消去でき、画面内をクリックすると再び文章が表示される。

　このほかにも以前表示した文章を表示する“テキスト回想”や一度読んだ文章を読み飛ばす“スキップ”など、ノベルゲームに必要な機能はひととおり揃っている。さらに本作には、ゲーム本体とは別に「フルボイス化パッチ」が用意されており、これを適用することで、主人公を含む全登場キャラクターの台詞をボイス付きで楽しめる。

オプション画面ではテキストの表示速度や全画面表示など、さまざまな設定が変更可能

　ゲームのセーブやロード、オプション設定の変更は、画面の右クリックで表示されるメニュー画面から行う。また通常のセーブとは別に、画面下の［Ｑ．ＳＡＶＥ］ボタンをクリックして1番から4番の数字を選ぶだけで、メニュー画面を開かずにすばやくセーブを行う“クイックセーブ”機能も利用可能。このほか、［Enter］キーでマウスクリックと同じ機能を実行したり、スペースキーでメニュー画面を表示するなど、豊富なキーボードショートカットが用意されており、キー操作を覚えればさらに快適にプレイを進めることができる。

特定条件で出現する缶ジュース投げゲーム。ハイスコアを目指そう

　ノベルゲーム本編に加え、バッドエンド以外のエンディングを見たあとに、ゲーム内の特定シーンに追加される選択肢を選ぶことでミニゲームを楽しめるようになる。缶ジュースを遠くまで投げるのがゲームの目的。画面には投げる高さを表す縦のゲージと、強さを表す横のゲージが表示され、ゲージごとに判定を行う。マウスボタンを押すとゲージが動き出し、あとはボタンを離すまで動き続けるので、『ここだ！』と思ったときにボタンを離そう。高さはゲージのちょうど真ん中を、強さは一番右端を狙うとよい。うまくタイミングを合わせて飛距離が伸びると、ミニゲーム開始時により難易度の高い“マスターモード”や“神モード”を選べるようになる。さらに高さと強さの組み合わせ次第で、ノベル本編中には出てこないイラストを見ることができるので、色々と試してみよう。また、1つでもエンディングを見ると、タイトル画面のメニューに［おまけ］が追加され、これを選択することでミニゲームだけを直接プレイしたり、作中のイラストやBGMを個別に鑑賞できる。

　本作は市販ゲームのような大作ではないが、読後感は切なさとある種の清々しさが同居しておりとても印象的だ。丁寧な筆致で書かれた本文は、ノベルゲームとしても珍しい縦書きで表示され、そこにふとした拍子に魅力的な表情を見せるキャラクターイラストと、ネット声優を起用したキャラクターボイスが加わることで、物語を盛り上げている。さらに物語のなかで重要な役割を果たす劇中歌“ヒトナツの夢”をはじめとする、どこか郷愁を感じさせる美しい音楽と、夏の強い日差しをイメージさせる背景イラストが華を添える。物語冒頭、逆光とともに表示される美しい背景で表現された屋上からの夕日の鮮烈さは、思わず息を飲むほど。ノベルゲームファンにはぜひプレイしてもらいたい作品だ。

悪友“西原礼治”と学生バンド“BROY”（ボーイ）のメンバーたち		ピンチヒッターとして前夜祭のステージで“ヒトナツの夢”を歌う瑞菜

【著作権者】（猫）milk cat
【対応OS】Windows 95/98/Me/2000/XP
【ソフト種別】フリーソフト
【バージョン】1.02（05/09/06）
【ファイルサイズ】本体は19.8MB、フルボイス化パッチは58.5MB

□（猫）milk cat
http://milkcat.jp/

（霧島 煌一）