特別企画

「Jane Style」「Janetter」を開発する(株)ジェーンにインタビュー

新たに加わった開発スタッフを交え、「Janetter」開発の経緯と今後の展望を聞く

(11/01/27)

(株)ジェーンの3人。左から佐々木氏、山下氏、三宅氏(株)ジェーンの3人。左から佐々木氏、山下氏、三宅氏

 “2ちゃんねる”専用ブラウザー「Jane Style」の開発元として知られる(株)ジェーンは昨年12月16日、Twitterクライアント「Janetter」の正式版を公開した。初のベータ版公開時から注目を集めた新進気鋭のソフトだけに、今後のさらなる成長を期待する声も多い。そこで窓の杜では、大阪にオフィスを構える(株)ジェーンへのインタビューを行い、「Janetter」開発の経緯や今後の展望などをうかがった。

 2009年3月に弊誌特別企画にて、フェンリル(株)の社長である柏木泰幸氏と対談を行った際は山下遼太氏が1人で運営していた(株)ジェーンだが、現在は正社員のスタッフ2名、東京在住の大学院生の非常駐スタッフ1名を加えた計4人体制で運営しているという。今回は山下氏のほか、スタッフとして主にソフトのフロントエンドの開発を担当する三宅亮氏と、同じく主にバックエンドの開発を担当する佐々木真一氏にもインタビューに参加していただいた。

「Janetter」公開までの道のりと今後の展望

「Janetter」を開発した経緯を教えてください。

(株)ジェーン 代表取締役社長 山下遼太氏(株)ジェーン 代表取締役社長 山下遼太氏

山下氏
“Twitter”は、個人のコミュニケーションツールであったり、企業や飲食店がお客さんと交流するためのビジネスツールであったり、情報を取得するためのツールであったりと、さまざまな使い方があると思います。
しかしTwitterの公式サイトは、今流れている情報を見るには十分ですが、過去のログを検索したり、情報を振り分けたりする機能は不十分だと感じています。これを解消したいというのが「Janetter」開発のきっかけです。
また、Twitterはコミュニケーションのインフラとして毎日使うものだからこそデザインにこだわり、動作も高速でストレスを感じさせないソフトを作りたいという思いがありました。
ジェーンのスタッフはみなiPhoneを使っているのですが、iPhoneアプリのTwitterクラインアントは非常に便利なものが多数あります。しかしiPhoneはPCに比べて画面が小さいので情報の一覧性には欠けています。そこで、iPhoneアプリの使い勝手のよさをPCで再現し、また情報の一覧性も高いソフトを目指して開発しています。

「Janetter」のアピールポイントはどこですか。

標準で用意されたテーマから好みのデザインを選べる標準で用意されたテーマから好みのデザインを選べる

山下氏
かわいいデザインやクールなデザインなど、さまざまなテーマを用意しているので、好みのデザインがきっとみつかると思います。もちろんデザインだけでなく、高速な動作や使いやすさにもこだわっています。また、使い込むほど便利だと感じられる機能も多数搭載しています。

「Jane Style」にTwitter機能をつけようとは思いませんでしたか。

三宅氏
2ちゃんねるとTwitterではユーザー層が異なると考えています。「Jane Style」にTwitter機能を実装しても、2ちゃんねるを見ていないTwitterユーザーには利用してもらえないと思い、別のソフトとして公開しました。
今後「Jane Style」にTwitter機能を実装してもいいとは思いますが、「Janetter」は「Janetter」として発展させていく予定です。

公式サイトに記載されている、Webアプリ版の公開やFacebook対応などのほかに、今後「Janetter」にどのような機能を追加していく予定ですか。

山下氏
自宅や職場のPC、外出中のモバイル環境など、どのような環境でも同じ情報にアクセスできる機能を追加する予定です。異なる環境で同じツイートを読むのは時間がもったいないので、ツイートの未読・既読を同期する機能は早急に追加したいです。iPhone版やAndroid版などスマートフォン対応も進める予定です。
またリアルタイムでツイートを取得する“User Streams API”への対応は「Janetter」の開発版である程度進んでいるので、早く正式版として公開したいですね。そのほか、現在は「Janetter」のひとつひとつのタブをそれぞれ一枚のWebページとして描画しているのですが、省メモリ化やWeb版の公開につなげるために、すべてのタブを一枚のWebページで描画できるようにしたいです。

「Janetter」を開発する上で参考にしたソフトはありますか。

山下氏
世の中にリリースされているTwitterクライアントは一通り試しています。そのなかでもとくに参考にしたのは、iPhoneアプリの「TwitBird」や「Twitter for iPhone」です。「TwitBird」のような会話のつながりがわかりやすいクライアントを作りたいと思いました。また、Webブラウザーの「Google Chrome」のデザインも参考にしています。

ソフト名の由来はあるのでしょうか。

三宅氏
「Janetter」を開発する際に、まず名前を決めることにしたんです。“つい”をつけたほうがいいのか、それとも後ろに“ったー”をつけたほうがいいのかなと。
佐々木氏
もともと「Jane Style」を作っていたので、“ツイート スタイル”とかになるのかなと思っていましたね。
山下氏
“ジェーン”って女の子の名前じゃないですか。だから今回も女の子の名前にしようかなと思っていました。
三宅氏
キャッシーとか……?
山下氏
ジャネット・ジャクソンが好きなんで、“ジャネッター”にしようかなと。
一同
それは後付けですよね?(笑)。
山下氏
結果としてジャネットにも近いし、女の子の名前だしいいかなと(笑)。ジャネットといえばお兄さんが有名なマイケルなんで、「Janetter」のフロントエンドは“ジャネット”、裏側で動いてるサーバーは“マイケル”というコードネームで開発しています。

「Janetter」の開発環境について教えてください。

山下氏
開発環境はアプリケーションの外観や通信部はDelphiで、タイムラインのレンダリング部はWebKitを採用し、HTML5+CSS3+JavaScriptで作成しています。
佐々木氏
今後Web版を公開するために、できるだけソースの流用性を高めておきたかったんです。Delphiだけで完結したソフトを作るよりもコストはかかったと思いますが、個人的には先行投資だと考えています。

「Janetter」の開発風景「Janetter」の開発風景

Web版についてはどのような展望を考えているのでしょうか。

山下氏
まずは現在の仕様がそのまま流用できる“Chrome Web Store”版の公開を予定しています。その後「Firefox」やIEなど、WebKit以外の環境でも利用できるWeb版を公開したいと考えています。
佐々木氏
現在、Mac版の公開に備えてバックエンド部をPythonで実装しているところです。Web版はクラウドを使う予定ですが、基本的にはそのPython版バックエンドをカスタマイズしたものを使う予定です。

タイムラインのレンダリングにWebKitを利用しようと思った理由を教えてください。

山下氏
当初はIEコンポーネントで開発を始めましたが想定していた速さが出ませんでした。美しいデザインと高速なレンダリングを両立するためには、WebKitが必須でした。
HTMLを扱える人なら誰でも好きなテーマを作れるので、「Jane Style」のようにテーマ作者とユーザーの交流が生まれることを期待しています。
また、フェンリルさんが公開している「Grani」のように、さまざまな企業とコラボしたテーマも出していきたいです。

正式版公開時のプレスリリースに掲載されていた「Janetter」の利用者数(1万人以上)はどのように集計したのですか。

山下氏
ソフトのアップデートを確認する機能を利用してユーザー数を計測しています。最近では1日に400人ほど増えていて、正式版公開時と比べると1万人以上増加しました。

今度「Janetter」をどうやって収益につなげていく予定ですか。

山下氏
今後リリース予定のWeb版との連携機能を収益につなげていきたいと考えています。たとえば、どんな環境でも同じログにアクセスできる同期機能、「Janetter」を起動していなくてもすべてのツイートを保存できる機能、詳細なログの解析機能、GoogleやEvernoteといった外部サービスとの連携機能などの一部を有料で提供できればと考えています。
とくにログの解析機能は一般ユーザーには不要な機能だと思いますが、たとえば飲食店でTwitterを販促に利用している場合に、自分の発言にどの程度の反響があったかなどを調べたいといったニーズはあると思います。

「Janetter」ユーザーに向けてのメッセージをお願いします。

山下氏
どんな環境でも同じ情報にアクセスできる、ソーシャルメディアの入り口となるサービスを目指しています。ユーザーのみなさまと共に、より便利なサービスを作っていきたいと考えています。これからもよろしくお願いいたします。

そのほかTwitterや2ちゃんねる、(株)ジェーンについて

Twitterと2ちゃんねるの違いはどこにあると思いますか。

山下氏
2ちゃんねるは“何を言ったか”、Twitterは“誰が言ったか”が重要だと思います。2ちゃんねるは匿名で書き込めるため、たくさんの情報が集まりますが、その分内容は玉石混淆です。
Twitterはフォローする人を選んだり、リスト機能を利用することにより、情報量を自分で調整できます。たくさんの情報から必要な情報だけを入手できるのは魅力的だと思います。
Twitterのよさを2ちゃんねるでも活かすために、「Jane Style」には“赤レス抽出”や“自分返信”機能をはじめ、2ちゃんねるで必要な情報だけを手軽に集めるための機能を多数実装しています。

「Jane Style」を「Janetter」のようにイメージチェンジする予定はありますか。

山下氏
いずれは「Jane Style」のインターフェースもわかりやすいものへと作り直したいと考えています。また、「Janetter」と同じく「Jane Style」もWeb版の公開を目指しており、さまざまな環境で未読やお気に入りなどを同期できる機能を実装したいと思います。

Twitter上でのユーザーとのコミュニケーションについてどのようにお考えですか。

三宅氏
Twitterはわからないことを気軽に聞きやすい雰囲気がありますね。
佐々木氏
自分で調べる前にとりあえず2ちゃんねるで聞いてみようかっていうノリに近いですね。
三宅氏
2ちゃんねるなら誰かが勝手に答えてくれるけど、Twitterではなかなか勝手には答えてくれないですよね。
山下氏
ジェーンでは、“Janetter”などのキーワードでTwitterを検索して、質問などには時間のあるときにまとめて答えるようにしています。
でも、不具合の報告はTwitterではなく、開発スレッドのほうに書いていただけると幸いです。そちらのほうが適切に対処できると思います。

Twitterをどのように使っていますか。

山下氏
Twitterはさまざまな使い方があって、私はフォローしている人の発言はすべて読みたいんです。三宅と佐々木は逆で、今流れている情報が見られればいい。このように両極端な使い方があるので、標準の設定をどうしようか悩みました。
三宅氏
ユーザーにいちいち設定画面を開かせたくなかったんです。そのため「Janetter」では、インストール時にユーザーの傾向によって大まかな設定を選べるようにしています。
山下氏
以前はとにかく機能を増やしてユーザーが好みに設定できればいいと思っていました。「Jane Style」はそういう作り方ですね。今から新しく「Jane Style」を使い始める人には、意味がわからない設定が多数あると思います。「Janetter」ではそうならないように、こちらから大まかな設定を提示していこうと思います。

スタッフは増えましたが、まだ募集は行っているのですか。

山下氏
Mac版、Web版、スマートフォン版とやりたいことはたくさんありますが、人手が足りません。世界に向けたWebサービスを一緒につくる仲間を募集中です。
佐々木氏
入社して半年ですが、個々の裁量が大きく、自由な社風なので、煽り文句でなく働きやすい職場だと思います。新しいことをやりたいと思っているエンジニアの方にご応募いただけたらと思います。

昨年のエイプリルフールではいわゆる“ネタソフト”を公開されていましたが、公開までの経緯などを教えてください。

山下氏
4月1日に何かを公開しなければと思っていたんです。3Dが流行っていたので、赤青眼鏡ネタの「Jane Style」を公開しました(笑)。
三宅氏
今年は眼鏡をかけなくても3Dに見えるのが流行るんじゃないですかね。
編集部
それはネタとして通じにくそうですね(笑)。
山下氏
今年も何かネタソフトを公開できればと思っています。

インタビューを終えて

 新たな開発スタッフを加え、「Janetter」とともに動き出す(株)ジェーン。大阪の街を一望するオフィスから、新しいオンラインソフトが世界に向けて羽ばたいていく様子を肌で感じることができた。多忙ななか、貴重な時間を割いて快くインタビューに応じていただいたことに、この場を借りてお礼申し上げたい。

地上31階に位置するオフィスからは大阪の街を一望できる地上31階に位置するオフィスからは大阪の街を一望できる

(加藤 達也)