#モリトーク

美しいフォントの定義

(12/05/08)

 『Macはフォントがキレイで、Windowsは汚い』といった話を見聞きしたことがないだろうか。文字通りに解釈すれば、『Macにはキレイなフォントが搭載され、Windowsはそうではない』と読めるが、事情はもう少し複雑だ。フォントの美しさを定義するにはまず、フォントデザインの品質と、フォント描画の品質を分けて考える必要がある。前者は各個人の好みにも左右される問題なので今回は横に置き、後者のフォント描画について説明したい。

 フォント描画の美しさが輪郭の滑らかさを指すとすると、それはフォントサイズとモニター解像度に依存する。そのため、見た目上の文字サイズが同じになるようにフォントサイズを調整した場合、同じインチ数のモニターなら解像度が高いほど、理論的にはフォント描画が滑らかになる。その最たる例がApple社製品の“Retina Display”であり、iPhone 4/4Sと新型iPadは旧製品と比較して4倍も解像度が高い。また、紙に印刷した文字が滑らかなのは、単純にプリンターの解像度が高いからだ。

Windows 7のClearType機能Windows 7のClearType機能

 しかし理論的な改善策がわかっていても、文字が読みやすいフォントサイズはおのずと決まってくる上、モニター解像度も限度があるので、あるところでフォント描画の滑らかさが頭打ちになる。そこで、MacもWindowsも文字を美しく描くために、アンチエイリアス処理でフォント描画を補正している。Macの場合、このアンチエイリアス処理がシステム全体で効くようになっているが、XP以降のWindowsでは“ClearType”と呼ばれる技術に対応するフォントを使用したときのみ、アンチエイリアス処理が本格的に働く。この違いが、『Macはキレイで、Windowsは汚い』というイメージを抱かせる原因のひとつになっている。

 ただしWindowsでも、アプリケーションがフォントのアンチエイリアス機能を独自に実装していれば、ClearType非対応のフォントであってもフォント描画の品質を向上させることができる。たとえば、窓の杜で先月紹介した青空文庫ビューワー「TxtMiru」や、Apple社製Webブラウザー「Safari」は独自のアンチエイリアス機能を搭載している。そして、そのアンチエイリアス機能を究極の形にしたソフトが「MacType」であり、Windows上のフォント描画を一手に引き受けてくれる。

「TxtMiru」「TxtMiru」

「Safari」「Safari」

 フォントのアンチエイリアス処理はあくまでも補正であり、処理後のフォント表示が美しいと感じるかどうかは、各個人の好みや慣れによって大きく変わってくるほか、組み合わせるフォントとの相性も関係してくる。とくに、画線の太さに強弱がある明朝体フォントを使ったり、フォントサイズが小さい場合は補正に無理が生じるので、『文字がボケて見える』とか『文字の色が薄い』といった印象が増してしまう。擬似的な仕組みに頼ることなく、だれもがデスクトップ環境で美しいフォントを楽しめるように、超高解像度モニターと、それを管理するシステムの登場が待たれる。

(中井 浩晶)