特集

“IT 勉強会スタンプラリー”で行く、全国コミュニティ探訪 第3回

Hokuriku.NET(福井県・福井市)

(12/10/04)

“IT 勉強会スタンプラリー”“IT 勉強会スタンプラリー”

 “IT 勉強会スタンプラリー”に参加する勉強会を訪ねる本企画。第3回となる今回は、9月29日に福井市で開催された“Hokuriku.NET vol.10”に参加した。

MEMO“IT 勉強会スタンプラリー”とは?

 “IT 勉強会スタンプラリー”とは、日本各地で開催されるプログラミングやインターネット技術に関する勉強会に参加してスタンプを集めるイベント。3月31日から開催されており、開催期間は来年の3月31日までの1年間。参加費は無料で、イベントに加盟する勉強会に参加してスタンプの台紙をもらえばだれでも参加できる。

 各コミュニティは北海道から九州に至るさまざまな地域で活動しており、取り扱うジャンルも、プログラミング言語、フレームワーク、データベース、開発技法など、非常に多岐にわたる。自分の知識や能力を伸ばしたい人や、同じ話題を語り合える仲間を探したい人、会社や業界の垣根を超えた人脈を作りたい人にはもってこいのイベントと言えるだろう。

北陸地方に根付いた勉強会コミュニティ“Hokuriku.NET”

“Hokuriku.NET vol.10”の会場風景“Hokuriku.NET vol.10”の会場風景

今回の勉強会を取り仕切った鈴木孝明氏今回の勉強会を取り仕切った鈴木孝明氏

 “Hokuriku.NET”は、Microsoftの技術を扱ったIT勉強会を定期的に開催するコミュニティ。活動範囲を福井・石川・富山の北陸三県に限定しているのが特徴で、第1回の“プログラミング生放送勉強会”や第2回の“わんくま同盟”が全国各地で活躍するのとは対照的な、“地域密着型”のコミュニティと言えるだろう。

□Hokuriku.NET
https://sites.google.com/site/hokurikunet/
□Hokuriku.NET(Facebook)
https://www.facebook.com/HokurikuNET

 今回参加した“Hokuriku.NET vol.10”は、JR福井駅のすぐそばにある福井市地域交流プラザの研修室で行われた。福井だけではなく石川・富山、さらには京都から約30人の参加者が駆けつけてくれた。

 “Hokuriku.NET vol.10”を取り仕切ったのは、鈴木孝明氏。C#言語による非同期プログラミングに関する情報を積極的に発信しており、今年から“Microsoft MVP for Visual C#”を受賞している。“Microsoft MVP”とは、マイクロソフト製品に関するさまざまなコミュニティ活動を表彰する制度で、同社の技術情報が優先的に開示されるなどの特典が得られる。いわば、マイクロソフトと一般の技術者を結ぶハブの役割を果たす人たちと言える。

 なお、地元のソフトウェア開発会社・アドバンスソフトウェア(株)の好意で、参加費は一切無料。同社は「ExcelCreator」や「VB-Report」といったアプリケーションを開発・販売しており、参加者へプレゼントとして提供をしてくれたほか、飲み物なども用意してくれた。

セッションの紹介

 それでは、“Hokuriku.NET vol.10”で行われたセッションの内容を紹介しよう。セッションは“Ustream”でも放送されており、会場へ行くのが困難な人でも無料で視聴できる。

Windows ストアアプリを作ろう ~Metroスタイルアプリ入門~

PFUソフトウェア(株) 小高知也氏PFUソフトウェア(株) 小高知也氏

Windows 8アプリを作ろう ~Metroスタイルアプリ入門~Windows 8アプリを作ろう ~Metroスタイルアプリ入門~

 最初のセッションは、PFUソフトウェア(株)小高知也氏による“Windows ストアアプリを作ろう”。Windows 8の発売まであと数週間ということもあり、今Windowsプラットフォームで一番ホットな“Windows ストアアプリ”の開発へ実際に挑戦し、ストアへ登録するまでの体験を伝えてくれた。

 氏が開発した「高校野球 News Reader」は、Microsoftが無償公開する「アプリ開発体験テンプレート」のRSSリーダーテンプレートを利用したもので、“セマンティックズーム”といった新しいWindows 8の機能にも対応する。

 残念ながら“Windows ストア”での公開はセッションに間に合わなかったが、開発者登録やアプリの開発でつまづきやすい点をわかりやすく伝えてくれた。Windows ストアアプリの開発に挑戦済みの参加者にも身に覚えのある点が多かったようで、思わず『あった! あった!』と声を上げる人も見られた。

 なお、小高氏の最近の悩みは子育てと開発の両立だそうで、子どもを膝に乗せて開発を行う“子守り駆動開発(CDD)”へ挑戦しているという(結果は失敗)。同じ悩みを抱える開発者がいるなら、ノウハウを共有してあげてほしい。

MEMOご当地グルメを楽しもう!

“ヨーロッパ軒”のトリオ丼(トンカツ+ミンチカツ+エビフライ)“ヨーロッパ軒”のトリオ丼(トンカツ+ミンチカツ+エビフライ)

 見知らぬ土地に来て楽しみなのは、なんといっても食べ物だろう。“Hokuriku.NET”では、県外からの参加者の観光という意味も込めて、ランチにご当地グルメのお店を紹介してくれる。

 今回“Hokuriku.NET”のメンバーが紹介してくれたのは、“ヨーロッパ軒”。福井名物ソースカツ丼の元祖とも言えるお店だそうだ。薄めのトンカツに後味がサッパリとした特製のソースがたっぷりとかかった逸品で、ボリュームも満点だ。

 ご当地グルメを目当てに、いつもとは違う勉強会に参加するのも楽しい。

エバンジェリスト養成講座 ~北陸マイクロソフトコミュニティ限定版~

日本マイクロソフト(株)エバンジェリスト 西脇資哲氏日本マイクロソフト(株)エバンジェリスト 西脇資哲氏

エバンジェリスト養成講座 ~北陸マイクロソフトコミュニティ限定版~エバンジェリスト養成講座 ~北陸マイクロソフトコミュニティ限定版~

 2番目のセッションは、日本マイクロソフトのエバンジェリスト・西脇資哲氏による“エバンジェリスト養成講座”。

 エバンジェリストとは“伝道者”のことで、製品の魅力をより多くの人に伝える役割を担うプレゼンテーションのスペシャリストだ。MicrosoftにはそうしたPR業務を担う開発者を多く抱えているが、西脇氏はそのなかでも、Microsoftの経営そのものを左右する極めて重要なプレゼンテーションにも指名される切り札的な存在。また、Microsoftだけでなく、さまざまな企業・団体で講演・トレーニングを行うなど、幅広く活躍している。

 今回の“エバンジェリスト養成講座”では、そのノウハウを“Hokuriku.NET vol.10”限定で披露してくれた。ランチでお腹を満たした直後で、ともすれば眠気を誘う午後一番のセッションだったが誰一人眠る参加者はおらず、みんな真剣に耳を傾けていた。今回の勉強会でもっとも印象的だったという声が多く聞かれたのもこのセッションだ。

ASP.NET MVC4でWindows AzureのSpring Release機能を余すところなく使ってみる!

Microsoft MVP for Windows Azure 勇大地氏Microsoft MVP for Windows Azure 勇大地氏

ASP.NET MVC でWindwos Azure の新機能を余すところなく使ってみる!ASP.NET MVC でWindwos Azure の新機能を余すところなく使ってみる!

 その大変印象深い西脇氏の次のセッションを受け持ったのは、“Microsoft MVP for Windows Azure”の勇大地氏。普通ならばかなりの緊張を強いられるところを、直前のセッションを逆手に参加者から笑いをとるところなどは、さすが各地でセッションを受け持つことが多い“Microsoft MVP”だと感じさせられた。

 セッションの内容は、今年に入って行われた“Windows Azure”の強化ポイントを整理するとともに、その有効な使い方を紹介するというもの。

 たとえば『Windows Azureで.NET Framework 4.5は利用できるか?』『日本語OSは使えるのか?』といった質問には、“IaaS”機能“Virtual Machines”を利用して解決する方法を、『簡単なアプリをタダで使いたい』という要望には“PaaS”機能の“Webサイト”に用意されている“Free”プランをそれぞれ紹介するなど、さまざまなシナリオに応じた“Windows Azure”のより簡単でお得な使い方をわかりやすく伝えてくれた。

 セッションの資料は“SlideShare”にも公開されているので、興味のある人は参照してほしい。

Featuring Project Silk & Liike:楽しい “モダン” Web 開発のちょっとディープなお話

日本マイクロソフト(株)エバンジェリスト 井上章氏日本マイクロソフト(株)エバンジェリスト 井上章氏

Featuring Project Silk & Liike:楽しい “モダン” Web 開発のちょっとディープなお話Featuring Project Silk & Liike:楽しい “モダン” Web 開発のちょっとディープなお話

 トリをつとめたのは、西脇氏と同じ日本マイクロソフトのエバンジェリスト・井上章氏。“Project Silk”と“Project Liike”を紹介してくれた。井上氏自身、米国のMicrosoftでこれらのプロジェクトに関わった経験をもつ。

 “Project Silk”とはMicrosoftの“patterns & practices”チームのプロジェクトで、モダンブラウザーを利用したWebアプリケーションの、主にクライアントサイド(Webブラウザーで動作する部分)における設計開発および実装のリファレンス。多数のサンプルコードとドキュメントも含まれている。

 HTML5、CSS3、JavaScript、jQueryなどを利用したクライアントサイド開発はともすれば複雑になり、設計・管理が破綻しがちだ。しかし、これまで得られた経験をパターンとして理論化し、それを応用することでよりよいアプリケーションを構築することは可能なはずだ。たとえば、JavaScriptをうまくモジュール化して保守性を高めることや、ユーザーの使い勝手に配慮するために“レスポンシブ”デザイン(画面のサイズによって見栄えが適切に変化するデザイン)を取り入れること、セキュリティを高めるための規則を設けることなどが含まれる。

 “Project Silk”は、そういったよりよいWebアプリケーションを構築するための指針とでも言うべきもの。“Project Liike(リーケ)”はその“Silk”のモバイル版だ。“Liike”とはフィンランド語で“運動”を意味する単語のようだ。

 Web開発において、HTML5、CSS3、JavaScriptはもはや避けて通ることのできない技術だ。今後ますます複雑化するWebアプリケーション開発では、よりよい技術の選択、アーキテクチャーの検討が重要となってくる。そういった意識をもった取り組みが“Project Silk”“Project Liike”という2つのプロジェクトであり、ひいては「Visual Studio」をはじめとする開発ツール群であるというわけだ。

プレゼント抽選会と懇親会、そしてまとめ

プレゼントを賭けたじゃんけん大会プレゼントを賭けたじゃんけん大会

 お固いお勉強のあとは、じゃんけん大会で大盛り上がり。登壇者が執筆した著書や集められたグッズがプレゼントとして提供され、それを賭けた熱いバトルが繰り広げられた。なかにはゲットした本にサインをねだる参加者もみられた。

 そのあとは、場所を移して懇親会。美味しい料理とお酒を囲んで、技術話に興じるのはとても楽しいものだ。

 しかし、これまでの懇親会と少し異なるのは、ただ交流を楽しむのではなく、自然とコミュニティの運営についての意見が交わされたところだろう。

鯖を糠に漬けた福井伝統の保存食“へしこ”を酒の肴にした二次会でも、真剣な意見が交わされる鯖を糠に漬けた福井伝統の保存食“へしこ”を酒の肴にした二次会でも、真剣な意見が交わされる

 運営上の課題としては、まず集客の問題がある。東京や大阪ならば募集をかけるだけで一定の参加者が見込めることもあるが、北陸ではなかなか難しい。もちろん、参加者の多い勉強会にも運営上の悩みはあるだろうが、まず一定以上の参加がないと開催すらままならない。

 また、“Hokuriku.NET”では北陸三県を持ち回りで勉強会を開催しているが、とくに福井と富山では地理的に隔たりが大きい。電車でも2時間ほどかかる上、関東や関西ほど交通事情に恵まれているわけではない。そのため、ともすれば開催する場所によって参加するメンバーが固定化してしまうことにもなりかねない。

 そのためには、今回のように西脇氏・勇氏・井上氏のような“大物”登壇者を招いて、参加者に興味をもってもらうのも手だ。しかし一方で、地元の人に登壇をお願いし、情報の発信者を産み育て、ひいては北陸のITを盛り上げるのも忘れてはならない。今回その役割を担ってくれたのが小高氏だが、このように登壇者のチョイスひとつをとっても意味が込められているように感じられる。

 また、今回は勉強会のテーマの継続性についても気を配っているという。たとえば、今回と次回の勉強会のテーマに連続性があれば、たとえ多少地理的に遠くても参加してもらえるかもしれないという狙いだ。ただ個人がスキルを伸ばすというだけではなく、北陸地域での交流の場にしたいという気持ちが感じられる。

 このような試行錯誤は参加者にもなんとなく伝わるはずで、それが“Hokuriku.NET”の魅力にもなっているのではないかと感じられた。

 なお、次回の開催は、冬に富山で行われるようだ。冬の富山は寒鰤が美味しいとのことなので、興味のある人は是非参加してみてほしい。

次回予告

 本特集の次回は、10月13日に開催される“スマートフォン勉強会@関東 #21”のレポートをお届けする予定。これまではあまり学習ジャンルを限定しない勉強会を取り上げてきたが、次回は“スマートフォン”という特定のジャンルにフォーカスした勉強会を紹介する。楽しみにしてほしい。

(柳 英俊)