特集

“Firefox史上最多の改善点”を誇る「Firefox 4」がついに登場

新機能や強化ポイントを紹介

(11/04/14)

「Firefox」v4.0「Firefox」v4.0

 「Firefox」のメジャーバージョンアップ版となるv4.0が、3月22日に公開された。前回のメジャーバージョンアップであるv3.6の公開は2010年1月22日なので、ちょうど1年2カ月ぶりのメジャーバージョンアップということになる。

 「Firefox」v4.0ではレンダリングエンジンに“Gecko 2.0”を採用。最新の標準規格であるHTML5やCSS3、WebGLなどに対応しているほか、旧バージョンに比べて2倍~6倍高速化されているという。v3.0、3.5、3.6と大きく変更のなかったユーザーインターフェイスも一新されており、まさにメジャーバージョンアップに相応しい内容となっている。

 そこで本特集では、新機能や強化点を紹介する。“Firefox史上最多の改善点”を誇る「Firefox」v4.0とは、どのようなWebブラウザーなのだろうか。

ユーザーインターフェイスの刷新――シンプルさを追求

「Firefox」v3.6「Firefox」v3.6

「Firefox」v4.0「Firefox」v4.0

 「Firefox」v4.0をインストールしてまず目に付くのは、ユーザーインターフェイスが従来バージョンとガラリと変わっていることだろう。以下に「Firefox」v3.6から「Firefox」v4.0(以下、「Firefox 4」)への変更点をまとめてみた。

[Firefox]ボタン[Firefox]ボタン

タブをナビゲーションバー上部にタブをナビゲーションバー上部に

  • [Firefox]ボタンの新設

     「Firefox 4」では、メニューバーが[Firefox]ボタンへと置き換えられた。このボタンはWindowsにおける[スタート]ボタンのような役割を果たしており、「Firefox」が備えるコマンドの多くが集約・整理されている。

     従来のメニューバーも表示可能だが、表示させた場合は[Firefox]ボタンが非表示になる。また、メニューバーは[Alt]キーで一時的に表示させることも可能。この場合は、[Firefox]ボタンが非表示にならない。

  • タブがナビゲーションツールバーの上部に移設

     「Opera」や「Google Chrome」と同様、タブバーがナビゲーションツールバーの上へ配置された。この表示が気に入らない場合は、従来の表示に戻すことも可能。

  • ブックマークツールバーとステータスバーが初期状態で非表示に

     ブックマークツールバーが非表示になり、代わりにナビゲーションツールバー右端へブックマークボタンが新設されている。また、ステータスバーも廃止され、リンクのURLやWebブラウザーの通信ステータスは画面左下へポップアップ表示されるように変更されている。さらに、[中止]ボタンと[更新]ボタンと統合されてひとつになった。

「Firefox 4」では従来のユーザーインターフェイスも残されている「Firefox 4」では従来のユーザーインターフェイスも残されている

 全体的な印象としては、ボタン類が削減されてシンプルになった。そもそも、頻繁に利用する機能は、実は非常に限られている。ならば、あまり使わない機能は普段非表示にして、Webページの表示領域を広く取れるほうがいいというわけだ。ほかのWebブラウザーも最近のバージョンでは概ねこのようにシンプルデザインを採用しており、「Firefox」もそれに習ったという印象を受ける。

 しかし、必ずしもすべてのユーザーがシンプルな画面を好むとは限らない。使いたいときにすぐ使えるように、できるだけ多くのボタンを普段から表示しておくというのも使い方のひとつだ。そんなユーザーのために、「Firefox 4」では従来のユーザーインターフェイスも残されており、好みに応じて有効化できるようになっている。Webブラウザーは使い方を提案するだけで強制はせず、ユーザーは自分好みのユーザーインターフェイスを選択できる。このあたりの柔軟性は、「Firefox」の魅力のひとつだと言えるだろう。

 そのほか、スタートアップページとして新しく“about:home”画面が追加。Web検索が行えるほか、Mozillaからのお知らせや「Firefox」を使いこなす上でのTipsなどが表示される。さらに、セッションの復元もこの画面から行える。

さらなる高速化――強化されたスクリプトエンジンとGPUの活用

スクリプトエンジン“JaegarMonkey”の採用による全面的な高速化

「Firefox 4」ではv3.6に比べて約6倍の速度向上となっている(MozillaのWebサイトより引用)「Firefox 4」ではv3.6に比べて約6倍の速度向上となっている(MozillaのWebサイトより引用)

 また、さらに高速化したスクリプトエンジンも魅力的。もともと「Firefox」は“SpiderMonkey”というスクリプトエンジンを採用している。それに加えて「Firefox」v3.5以降ではトレース型のJITコンパイラ“TraceMonkey”が搭載されていた。

 “TraceMonkey”は、インタプリタでコードを実行しながら、頻繁に利用される処理のみをネイティブコードへコンパイルして部分的に高速化を施す。ピンポイントで特定の処理を大幅に高速化できる反面、高速化できる部分の少ないコードでは恩恵が得られないという難点も抱えていた。

 そこで「Firefox 4」では、“JaegarMonkey(イエーガーモンキー)”と呼ばれるメソッド型のJITコンパイラを併用することでこの問題を解決。“JaegarMonkey”はコード全体をネイティブコードへコンパイルするため、処理を全体的に高速化できる。つまり、“JaegarMonkey”で全体的なパフォーマンスを底上げして、“TraceMonkey”で頻繁に現れる処理をピンポイントでさらに高速化する2段構えになっているのだ。

 Mozillaによると、「Firefox」v4.0ではv3.6に比べて約6倍の速度向上が確認できたとのこと。とくにJavaScriptを多用するリッチなWebアプリケーションで威力を発揮するだろう。

GPUによるハードウェアレンダリングの活用

ハードウェアによるレンダリング機能が有効になっているかどうかは“about:support”ページで確認できるハードウェアによるレンダリング機能が有効になっているかどうかは“about:support”ページで確認できる

 さらに「Firefox 4」では、GPUによるハードウェアレンダリングが積極的に活用されており、Windows XPではDirectX 9、Windows Vista/7ではDirectX 10によるレンダリングを利用できる。普段はゲーム以外であまり活用されていないGPUへレンダリング処理が委譲されることで、CPUへの負荷が低下し、全体的なパフォーマンスが向上する。

 加えて、Windows 7ではDirect2D(DirectWrite)によるテキストのレンダリングにも対応しており、より美しいレンダリングが可能。Direct2Dが有効な場合と無効な場合を比べてみると、フォントのジャギーが軽減されているのが確認できるだろう。

 なお、ハードウェアによるレンダリング機能が有効になっているかどうかは、“about:support”ページで確認できる。

Direct2Dを無効にした場合のテキストレンダリング。とくに“で”という字でジャギーが発生しているのがわかるDirect2Dを無効にした場合のテキストレンダリング。とくに“で”という字でジャギーが発生しているのがわかる

Direct2Dを有効にした場合のテキストレンダリングDirect2Dを有効にした場合のテキストレンダリング

 そのほかにも、実にさまざまな高速化が施されている。たとえば、ブックマークや履歴関連のコードが見直されており、ブックマークの処理や「Firefox」の起動速度が高速化された。また、クロスプラットフォームコンポーネント技術“XPCOM(Cross Platform Component Object Model)”の改良、複雑なデザインのWebサイトでも高速なスクロールを可能にする“留保レイヤー(Retained Layers)”、遅延フレーム、コンパーメント別ガベージコレクションなど、高速化・応答性の向上に関する技術が盛り込まれている。

そのほか追加された機能

 そのほかにも、さまざまな機能が追加されている。

タブの管理機能が強化、新機能“Firefox Panorama”などを搭載

“Firefox Panorama”機能“Firefox Panorama”機能

 「Firefox 4」で搭載された“Firefox Panorama”は、“Tab Candy”という名称で開発が続けられていたもので、複数のタブをグループ分けし、そのグループ単位で表示するタブを切り替え可能にする新しいタブ管理機能だ。「Firefox」のユーザーには、何十ものタブを同時に開いて利用するヘビーユーザーも少なくないので、本機能が活躍するシーンも多いだろう。

 ただし、この機能は基本的にマウス操作が中心のユーザー向け。キーボードで操作したいユーザーには縁遠い機能といえる。

 しかし、そんなユーザー向けにもうれしい機能が追加されている。「Firefox 4」では、ロケーションバーを検索すると開いているタブが検索候補に含まれるようになったので、キーボード操作で目的のタブを探すのが容易になっている。

よく使うWebアプリケーションをピン留めできる“アプリケーションタブ”機能

“アプリケーションタブ”機能“アプリケーションタブ”機能

 また、頻繁に訪れるWebサイトを“アプリケーションタブ”として表示できるようになったのも便利。

 “アプリケーションタブ”とは、タブバー左端へ表示されるアイコンのみの小さなタブで、すべてのタブを閉じてしまう機能でも閉じられることのない特殊なタブ。必要なときにすばやく切り替えられる上、タブバーのスペースを節約できるがうれしい。

 本機能を利用するには、目的のWebサイトをタブで開き、タブの右クリックメニューの[タブをピン留め]項目を選択すればよい。ピン留めしたタブは、同じくタブの右クリックメニューの[タブのピン留めを外す]項目を選択すれば解除できる。

“アドオンマネージャ”が刷新、タブとして表示されるように

“アドオンマネージャ”“アドオンマネージャ”

 拡張機能やテーマ、プラグインなどを管理する“アドオンマネージャ”は、タブとして表示されるようになった。従来のダイアログ形式よりも、画面が広々としており使いやすい。さらに、それぞれのアドオンの詳細画面ではライブラリサイト“Add-ons for Firefox”と同じようにサムネイル画像や5段階評価などの情報も参照可能になったほか、アドオンの自動更新を個別にON/OFFできるようになっている。

デスクトップとモバイル、ブラウザーとブラウザーを繋げる“Firefox Sync”

“Firefox Sync”“Firefox Sync”

 “Firefox Sync”は、かつて拡張機能「Weave」として提供されてきた機能で、複数の「Firefox」でブックマーク・パスワード・閲覧履歴・開いているタブといったWebブラウザーの各種設定を同期できる。

 「Firefox 4」では、この同期機能が標準搭載されており、セットアップ作業も以前より改良されて手順がシンプルになった。Android版「Firefox」やiPhoneアプリ「Firefox Home」との連携も可能。また、「Lunascape」などのサードパーティ製ブラウザーのなかでも、“Firefox Sync”へ対応しているものが現れており、今後は活躍する場面が増えそうだ。

プライバシーを守る――“DNT”と“HSTS”

“Do Not Track(DNT)”“Do Not Track(DNT)”

 行動ターゲティングと呼ばれる広告手法では、ユーザーのニーズを把握するため、個人が閲覧したWebページの履歴などを追跡する仕組みが利用されている。しかし、知らず知らずのうちにそういった個人情報を収集されるのを好まないユーザーは多いだろう。

 「Firefox 4」では、そういった個人情報の収集を拒否する意思を示す仕組み“Do Not Track(DNT)”に対応している。Webサーバー側の対応も必要になるため、有効にしたからといってすぐさま効果を発揮することはないが、今後主要なWebブラウザーや広告サーバーでの対応が進めば、個人情報の保護に役立つだろう。なお、本機能は初期状態で無効になっている。

 また、“HSTS(HTTP Strict Transport Security)”プロトコルにも対応している。“HSTS”プロトコルは、WebサイトがWebブラウザーに対して常に安全なHTTPS接続を利用するように強制できる。これにより、通信を盗聴して内容をすり替える“中間者攻撃”を防ぐことが可能になるという。

 ほかにも、CSSの“:visited”要素による閲覧履歴の漏えいを防ぐ機能などが盛り込まれており、より安全にWebを利用できるように配慮されている。

最新技術の標本箱――次世代のWeb標準技術を貪欲に取り込む

“Virtual Park Tumucumaque”のWebサイト“Virtual Park Tumucumaque”のWebサイト

 また、次世代のWeb標準技術が積極的に取り込まれているのも「Firefox 4」の特長。どれも次世代Webアプリケーションの動作プラットフォームとしては欠かせない技術で、とくにWeb開発者にとっては重要だ。

 Mozillaでは、「Firefox 4」で利用できる最新のWeb標準技術を活用したキャンペーンサイト“Virtual Park Tumucumaque”を開設している。ぜひ訪れて最新のWeb標準技術の可能性を体験してみよう。

HTML5の“Video”タグを利用してWebM形式の動画を再生可能に。“YouTube”などの一部サイトですでに利用できるHTML5の“Video”タグを利用してWebM形式の動画を再生可能に。“YouTube”などの一部サイトですでに利用できる

OpenTypeフォントでは、リガチャ、カーニング、異字体などを利用可能にOpenTypeフォントでは、リガチャ、カーニング、異字体などを利用可能に

  • HTML5 Video

     HTML5の“Video”タグを利用して、WebM形式の動画を再生可能になった。システムが対応していれば、GPUのハードウェアアクセラレーションを利用することも可能で、HD品質の動画もスムーズに再生される。

  • OpenTypeフォント

     OpenTypeフォントでは、リガチャ、カーニング、異字体などを利用可能になった。CSSの“-moz-font-feature-setting”プロパティを利用することでより美しい表記を実現したり、テキストへユニークな装飾を加えることができる。

  • トランジション・トランスフォーム

     トランジションやトランスフォームといった新しいCSS3の機能にも対応。これらの機能を利用すれば、Web上のコンテンツを回転させたり、さまざまなアニメーション効果を加えるといったことが、CSSで実装可能になる。

  • WebGL

    Windows版とMac OS X版ではWebブラウザー上でプラグイン不要の3Dグラフィックスを実現する規格“WebGL”が初期状態で利用可能になった。さらに、ページの最終的なレンダリング過程である各レイヤーの合成過程でも、DirectXを利用したGPUによるハードウェアアクセラレーションが利用できる。

  • HTML5 フォーム API

     自動補完やバリデーション(入力データの検証)といったHTML5の“form”要素への対応が強化された。

  • 音声データ API

     “Audio Data API”は、HTML5の“video”タグや“audio”タグに含まれる音声データへ、Web開発者が直接アクセスできるようにするAPI。たとえば、HTML5コンテンツで再生している楽曲をリアルタイムで解析し、“canvas”タグ上へスペクトル表示するといったことが実現できる。

    •  そのほかWeb標準とは直接関係はないが、Windows 7のマルチタッチ機能に対応。Webページでマルチタッチを利用するためのイベントなどが追加されており、開発者はタッチ操作を活用したWebアプリケーションを開発できる。

      おわりに

      著名な拡張機能のうち83%がすでに「Firefox 4」へ対応。しかし、お気に入りの拡張機能が使えなくなることも少なくない著名な拡張機能のうち83%がすでに「Firefox 4」へ対応。しかし、お気に入りの拡張機能が使えなくなることも少なくない

       ここまで「Firefox 4」の新機能や強化点を紹介してきたが、懸念される点がまったくないわけではない。そのうちのひとつが、拡張機能の対応状況だ。

       「Firefox 4」ではユーザーインターフェイスの大幅に変更されているほか、パフォーマンス改善のため内部の動作仕様にもかなり手を加えられているため、そのままでは動作しない拡張機能も少なくない。

       しかしMozillaによると、拡張機能開発者の努力もあり、4月1日現在で拡張機能利用者の95%に利用されている808個の拡張機能のうち、既に83%の拡張機能が「Firefox 4」へ対応しているという。

       それでも、たとえば筆者の愛用している一部の拡張機能は「Firefox 4」に対応しておらず、そのままインストールすることはできなかった。このような場合は、「Firefox 4」を導入することで得られるメリットと、お気に入りの拡張機能が使えなくなるデメリットを天秤にかけてアップデートを行うかどうか判断することになる。

       加えて、新旧の機能が並存しているのも気になる。たとえば、せっかくステータスバーが廃止されたにも関わらず、ステータスバーを利用する拡張機能を表示するには、従来のステータスバーの位置に“アドオンバー”を表示しなければならない点などは、チグハグな印象を受ける。

       また、テーマ機能とペルソナ機能、“Jetpack”とXULベースの拡張機能といった、一見よく似た機能が並存しているのも、入門者にとっては混乱の種になるのではないだろうか。それぞれの機能には向き不向きがあり、それを把握して状況によって使い分ければ問題はないのだが、逆に言えばそういった使い分けがユーザーに要求されるということでもある。これはあまりユーザーフレンドリーな仕組みとは言えない。

      リリースサイクルの見直しにより、「Firefox 5」は早ければ数カ月後にも登場(画像は開発版の「Aurora」)リリースサイクルの見直しにより、「Firefox 5」は早ければ数カ月後にも登場(画像は開発版の「Aurora」)

       とはいえ、そのような些細な問題を抜きにすれば、「Firefox 4」は高速性と豊富な機能を高いレベルで両立させており、不満点はない。従来バージョンを利用しているユーザーは、ぜひ乗換えを検討してほしい。

       なお、「Firefox」の今後ついてだが、メジャーバージョンアップのリリース間隔が大幅に短縮される。次バージョンの「Firefox 5」は、早ければ数カ月後に届けられる予定で、ますます激化するWebブラウザーの開発競争から目が離せない。

(柳 英俊)