杜のVR部

第68回

VRが盛り上がるGDC 2016からその熱気をレポート(後編)

VR開発のためのミドルウェアやさらに没入感を増すための周辺機器、一体型デバイスなど!

 3月14日から18日にかけてアメリカ・サンフランシスコで開催された世界最大のゲーム開発者会議GDC(Game Developers Conference)2016。先週お送りした前編に続き、今回は開発者寄りの情報をまとめた後編をお送りしたい。

 GDC 2016は開発者向けのイベントということもあり、講演や展示は基本的に開発者向けのもの。すでに前編で取り上げているようなコンシューマーに対する新情報の方が実は少ない。

 今回は、展示されていたミドルウェアや周辺機器から今後のVRの動向として注目すべきものを紹介していきたい。

VRコンテンツの制作を簡略化するためのミドルウェアなども登場

 今年のGDC 2016で何が最も印象的かと言われた時に、答えている展示がある。それはRealities.io社が展示していた「Realities.io」というコンテンツだ。HTC Viveで体験するこちらのコンテンツを体験した時、筆者が感動したのは“実写の中を歩ける”ということだ。

 この「Realities.io」では、フランスにある廃校やドイツの城など数カ所で、HTC Viveの特徴を活かし実際に歩く体験ができる。またコントローラーを使って移動先にレーザーを伸ばすことで、ワープすることもできる。実際の歩きとワープを組み合わせて非常に広い範囲を動くことができるのが特徴だ。また、見えている光景はかなり解像度が高く、たとえば足元に落ちている壊れているテレビのそばでしゃがんで中の配線を覗き込むこともできるほど。

実写と見間違うクオリティの「Realities.io」で歩いている様子

 VRで位置トラッキングを活用し動き回れるのは基本的に3DCGで構成したコンテンツのみ。360度カメラで撮影したような実写のものに関しては、撮影をした際のカメラの場所が体験者の視点となるため、その中を動くことはできない、という認識だった。その考えを覆す体験だ。

 このコンテンツは実際には数百枚の写真をもとに、Unreal Engine 4で制作されているとのこと。Graphine社の提供するツール“Granite”を使い、実写に近い非常に高精細なグラフィックを3DCG空間に再現しているという。

 GraniteはHTC Vive向けのコンテンツ「Everest VR」にも採用されている。「Everest VR」はエベレストの登山を体験するというコンテンツで2017年の公開を目指しているが、GDC 2016でデモ版を体験できた。最初は空からエベレストに向かう様子が映し出されるのだが、実写をもとに構成されたエレベストの山々の様子が実写と同じクオリティで再現されており、筆者には区別がつかなかったほどだ。

「Everest VR」。描写が息を呑む綺麗さだ

 VRのコンテンツを作るにはこれまでにない作り込みなどが必要になるという考えがあったが、Graphine社のツールのような、工数を削減したりクオリティを一気に上げるミドルウェアが今後一気に登場することを予見させられた。VRコンテンツづくりは一層簡単に、そしてその分クオリティが高くなっていくだろう。

没入感をさらに増すための周辺機器は“位置”が主戦場

 昨年も数多く出展されていたVR用の周辺機器。前回は“手”をいかにVR内で動かすかということにフォーカスしたコントローラーが多かったが、今回はプレイヤーの“位置”をトラッキングするためのデバイスを扱ったブースの幅が大きく印象的だった。

 OptiTrack社は、位置トラッキングシステム“OptiTrack6”を展示。複数人が同時にVR空間内に入り、手や位置がトラッキングされるだけでなく、現実の物体をトラッキングさせることで、VR内と現実の物体をシームレスに連動させることができる。ブースではバスケットボールをパスするデモを展示しており、精度の高さをアピールしていた。

OptiTrack6のバスケットボールのデモ。見えにくいが柱の裏にVRヘッドマウントディスプレイを装着した体験者がいて、写真左側に置かれたモニターのような視点でバスケットボールを見ながら実際にパスしている

 また、Noitom社は去年は全身をモーションキャプチャーするデバイス“Perception Neuron”を展示していたが、今年はOptiTrackとPerceprion Neuronの手の部分等を組み合わせ、複数人が同時にVR内で自由に動いてインタラクティブな体験ができる“Project Alice”を展示した。

NoitomのProject Alice。同時に4人の体験者とインストラクターの計5名がVRに入ることができる

 “手”の動きに関してはすでにOculus Rift向けのOculus TouchやHTC Vive向けのSteamVRコントローラーなど、専用のデバイスが発表されているため魅力は薄くなってきている。しかし、モバイルで体験できるGear VR向けのハンド・コントローラーはまだ存在していないため、Sixense社などがGear VR対応のデモを展示しており、かなり高精度に動作していた。

ハンド・コントローラー“STEM”のGear VRでのデモ。外部に位置トラッキング用のデバイスを設置するため、移動や手の動きのトラッキング精度は高い

 また、VR内の物に触れた感触を再現しようとする触覚フィードバックの要素を実現しようとするデバイスも出展されていたが、まだ開発途上というところ。Oculus TouchやSteamVRコントローラーでは微振動によって触覚を再現しているが、そのレベルを超える触覚を再現するのは現時点ではなかなか難しいのではないかという印象を受けた。

昨年、触覚フィードバックのデバイスを展示していたミライセンス社。プロダクト化を進めているということで製品プロトタイプと触覚フィードバックによって敵の方向がわかるシューティングゲームを展示していたが、デモ内容ではデバイスの真価が伝わってこず、果たしてどの程度触覚を再現しているのか未知数

目指せハイエンドモバイル!一体型デバイスの登場。ARの機能を兼ね備えたものも

 大手の出展ではないがいくつかのプロトタイプが展示されていたのは、一体型のVRデバイスだ。一体型とはPCやPS4に接続するのでも、スマートフォンを装着するのでもなく、プロセッサーがヘッドマウントディスプレイに内蔵されているもの。PC等に接続するタイプのケーブルの問題を解決すると同時に、スマホ装着タイプよりも高い、最適化されたパフォーマンスを発揮することができる。

 GDC 2016では、GameFaceやIdealensなどNVIDIA社のチップTegra K1を搭載したモデルが展示されていた。GameFaceに関しては昨年のE3から展示されており、最大で75fpsまで出すことが可能。春にリリースする次期プロトタイプではHTC Viveと同様、位置をトラッキングするLighthouseシステムに対応するとのこと。ワイヤレスでより高性能かつ快適なVR体験の実現に向けて取り組んでいるとのこと。

GameFace。GDCで展示していたのは昨年E3で展示したものと同じプロトタイプで、今後さらに強化される予定とのこと

 いずれのデバイスも解像度は2K相当ということで、スペック的には申し分ないが、最大の課題は頭を動かしたときのカクつきやブレ、もたつきを軽減すること。すでに市販レベルに到達しているOculus Rift、HTC Vive、PlayStation VR、Gear VRではソフトウェア面での工夫が施されてほぼ解決している。快適性に直結するこれらの問題が解決して、やっと製品版として売り出すにあたり文句のつけられないVR体験と言うことができる。

 GDCでの展示はなかったものの、会期中にSulon社がAMD社の協力のもと、一体型のAR/VRデバイス「Sulon Q」を発表しており、一体型への期待は高まっている。どのデバイスがこの課題を乗り越えて、製品版レベルまでクオリティを高められるのか要注目だ。

体験機会がなく謎に包まれていた「Sulon Q」

(もぐらゲームス:すんくぼ)