肉食恐竜の巣で恐竜と睨み合う体験「Back to Dinosaur Island」

　まるでその場にいるような体験を可能にするVRでは、映画の中にいるような体験もお手のものだ。より非現実的な方がよいだろう、ということで宇宙を舞台にしたものなどは既に多く制作されている。

　たとえば、12月に封切られる超大作『スター・ウォーズ』のスマホVR向けコンテンツは12月2日より専用アプリで配信されることが明らかになっている。また、『エイリアン』『ブレードランナー』などの映画を生み出したリドリー・スコット監督は、火星に一人残った宇宙飛行士を描くVR映画『The Martian VR Experience』を2016年に公開することを明らかにしている。

　宇宙以外にも、まるで非現実な存在はこれまで映画の中に多く登場してきた。恐竜もそのひとつだ。

　スティーブン・スピルバーグの『ジュラシック・パーク』で描かれた恐竜たちは迫力満点で、そして人を襲うときは圧倒的な恐怖を感じさせられた。

　かつて巨大な恐竜たちが地上を支配していた時代。過去の時代にタイムスリップをすることはできないが、VRで体験をすることはできる。ドイツのゲーム会社Crytekが制作した5分程度のOculus Rift向けデモ「Back to Dinosaur Island」はまさにそんな体験を可能にするものだ。

巨大トンボや恐竜が間近に迫ってくる恐怖を誰でも楽しめる工夫

　Crytek社は「Crysis」などのFPS、そしてゲームエンジンのCRYENGINEを開発・提供していることで知られている。ここ最近はVRコンテンツの開発に本腰を入れており、その第1弾コンテンツとして今年3月のゲーム開発者会議GDCで展示したデモが、この「Back to Dinosaur Island」だ。

　「Back to Dinosaur Island」では、プレイヤーが目を開くと、周りに並んでいるのは恐竜の卵。そう、恐竜の巣にいるのだ。小さな恐竜が目の前を横切るので、それに合わせて頭を動かすことになり、徐々にVRの中にいることがわかってくる。そして巨大なトンボが周りを飛び始めると非常に鬱陶しくなり、トンボが顔に向かってくるとついつい避けてしまったりもする。音は360度、トンボのいる方向から聞こえてくるため鬱陶しいことこの上ない。

プレイヤーは目を開くと恐竜の巣にいる

目の前を横切る恐竜

トンボの羽音が聞こえてくる

　こうして、Oculus Riftを装着したときの頭の動かし方を自然と身に付けるようになる工夫が見事に施されている。

　そして、トンボが遠くに飛んで行くと、静寂の中で聞こえてくる足音。そう、ここは恐竜の巣。親恐竜が巣に戻ってくるのだ……そこからはプレイヤーにとって恐怖の瞬間が訪れる。巣に帰ってきた巨大なTレックスがこちらを睨みつけ、鼻先を向けてくる。逃げようと体を動かすと、逃すまいと近付いてくる。まさに背筋が凍る思いだ。

至近距離まで近付いてくるTレックス

逃げようとしてもしっかり睨んでくる

　この後、餌となる草食竜を追いかけている仲間がちょうど現れ、Tレックスはプレイヤーではなくそちらを追いかける方に興味が移って去っていく。そして安心したのもつかの間、卵が割れる音が聞こえ始め……孵る恐竜の声が聞こえたところでこのデモは終了となる。

　全体の流れを説明したが、VRの初心者でもその魅力を十二分に体験できること、そしてトンボ、巨大な恐竜、卵の孵る音というさまざまな形での“恐怖の演出”が施されていること、この2点が素晴らしいデモとなっている。

　Crytek社はこのデモを制作後、6月のE3ではプテラノドンの巣がある断崖絶壁を登る「Back to Dinasour Island 2」を展示。プレイヤーが恐竜の世界を動くことに挑戦した。筆者もイベントで体験したが、CRYENGINEを使用した遠景に至るまで美しい描写は息を呑むほどで、さらにゲームとして冒険をするというワクワクする要素が加わっていた。完成度の高いデモにさらに完成度の高いものを重ねてきた印象だ。

　CrytekはE3で、恐竜の世界を冒険するVRゲーム「Robinson: The Journey」の開発を発表。その最新トレーラーは、10月にパリで開催されたParis Games Weekで公開され、PS4用VRヘッドマウントディスプレイPlayStation VR向けに開発されていることが明らかにされた。

　老舗ゲームメーカーでもあり、VRに本腰を入れている同社のVRゲームがどこまで高いクオリティのものになるのか、今から楽しみだ。