杜のVR部

第44回

Oculus Connect 2レポート。まだまだ進化するVRの未来を垣間見てきた

製品版Rift、Gear VRの完成度、そしてOculus Touchで新たな次元のVR体験へ

 9月23日から25日まで、ロサンゼルスではOculus VR社が開催する開発者向け会議“Oculus Connect 2”が開催された。数々のセッションにより開発ノウハウが共有されただけでなく、2016年第1四半期に発売される製品版“Rift”、および2015年11月にコンシューマー版が発売される“Gear VR”向けに配信される数々の新コンテンツ、そして第2四半期に発売されるVR専用のコントローラー“Oculus Touch”用の11種類のデモを体験することができた。

 前回の連載では東京ゲームショウで展示されたクオリティの高いVRコンテンツを紹介したが、Oculus Connectでの体験はさらにその先を行くものだった。

 いつもより興奮気味な筆者だが、その熱をお届けするべく今回はそのレポートをお送りしよう。

全世界からVRの未来を信じる1,500名以上がハリウッドに集結。会場はとてつもない熱気に包まれていた

製品版Riftで一気に改善された“装着感”

 製品版のOculus Riftは“Rift”という正式名称で呼ばれている。東京ゲームショウなどでも体験できた製品版プロトタイプ“Crescent Bay”が発表されてから約1年が経過し、その間に改善された最も大きなポイントが“装着感”だ。Crescent Bayと比べ、解像度などの性能は変わっていないが、一般販売を見据えプロダクトとしてのデザインが洗練された。

製品版“Rift”

 たとえば、ユーザー一人一人によって個人差がある左右の目の距離(瞳孔間距離、IPD)を調整するレバーが付属したほか、眼鏡が入りやすい広々とした余裕、鼻の部分から光が入らない密閉性、ベルクロのバンドではなくプラスチックとゴムの中間のような柔らかい素材のヘッドバンドでしっかりと固定、などさまざまな装着時の工夫が施された。

 実際に体験してみると、つけ心地はとても軽い。かといってずれることもなく、非常に快適なVR体験が可能だった。

つけ心地はCrescent Bayから劇的に進化している

 体験できたソフトは東京ゲームショウで体験できたソフトのラインナップより若干多かった程度。ハードウェアの装着感を確かめられたのが一番の収穫となった。

Riftローンチタイトルの公式紹介動画。新たにラインナップに加わったゲームは多いものの、体験できたコンテンツは東京ゲームショウのときとあまり変わらず

コンシューマー版発売を控え、一気に増えるGear VRのコンテンツ

 Oculus VR社がサムスンと共同開発しているスマートフォン向けVRヘッドマウントディスプレイ“Gear VR”は、これまでイノベーターエディションと呼ばれる開発者とアーリーアダプター向けのモデルが発売されてきた。しかし2015年11月、ついに一般消費者をターゲットにしたコンシューマー版が発売されることが明らかになった。コンシューマー版は、Galaxy Note5、Galaxy S6 edge+、Galaxy S6 edge、Galaxy S6と複数機種に対応し、価格は99ドルと一気に半額以下で発売される。

 このコンシューマー版の発売に向けて、体験できるコンテンツはさらに増えることをOculus VRは明らかにした。筆者も現地で一通り体験したが、注目のコンテンツを紹介していこう。

Gear VRコンテンツの公式紹介動画

 一般の消費者の関心をひくためか、Gear VRは多くの動画配信プラットフォームの動画を視聴できるようになる。テレビ番組を配信するNetflixは専用アプリをすでにストアにて配信中。また、巨大なシアターで大画面で色々な映像を楽しめる「Oculus Video(旧:Oculus Cinema)」では、ゲーム実況動画のTwitch、動画共有サイトのVimeo、動画コンテンツ配信のhuluなどの動画を視聴できるようになる。また、20世紀フォックスは映画を配信する。

 こうした動画はいずれもVRの中で、大画面を見上げながら見るというもの。家に居ながらにして大画面で見ることができるようになる。

Gear VR向けNetflixアプリ

 また、VR内のゲームセンターで懐かしいゲームがプレイできる「Oculus Arcade」も配信される。ゲームの提供はバンダイナムコエンターテインメントやセガ、ミッドウェイといったアーケードゲームメーカー。VR内の懐かしの筐体でパックマンやソニック・ザ・ヘッジホッグなどをプレイすることができるようになる。

 他にも多数のゲームやVR体験が今後リリースを控えており、先行して体験ができた。Rift向けゲーム「EVE: Valkyrie」を開発しているCCP Gamesは固定砲台で宇宙から飛来する敵を迎え撃つ「Gunjack」をリリースする。Gear VR向けのゲームの中でも随一の美麗なグラフィックを誇り、自身が移動できないことなど気にならないほどド派手なシューターとして仕上がっていた。また、昨年世界的にヒットしたスマホゲーム「モニュメントバレー」を開発したustwoはVRの特徴を活かした「Land's End」をリリースする。「モニュメントバレー」のアーティスティックな雰囲気をそのままに、幻想的に描かれた廃墟で、世界の秘密を求めて旅をするパズルアドベンチャーだ。

「Gunjack」公式トレイラー
「Land’s End」公式トレイラー

 実写全天周動画のコンテンツも数は多くないが配信される予定だ。そのひとつ「Clinton Global Initiative」はクリントン元米大統領が現在取り組んでいるクリントン財団の活動の一環で、アフリカの現状を語りながら現地の全天周映像を見るというもの。

VRは次の段階へ。次世代の面白さを体験できる“Oculus Touch”

 2015年6月、製品版Riftと合わせて発表されたVR専用のコントローラーが“Oculus Touch”だ。手で握るタイプのコントローラーとなっており、いわゆるゲームコントローラーとは一線を画したより直感的な操作が可能になる。また、ハプティクス(触覚)フィードバック機能が搭載されており、振動によって物に触れた時の感覚を再現できる。

Oculus Touchコントローラー

 こうして機能を書いてみると、これまでのゲームコントローラーの延長に位置するようだが、実際に体験してみるとこれまでのゲーム体験とは全く異なる体験になると言わざるをえない。PlayStation VRで使用するスティック状のPS Moveコントローラーと比べても、歴然とした差を感じられる出来だ。

 『自分の手がそこにある』感覚と言えばわかりやすいだろうか。信じられないかもしれないが、驚くほど軽い装着感と、指の動きを見事に捉えるボタンの配置によって、指を伸ばしたり、手を握ったりといった動作が可能になっており、直感的な操作というより、VRの中に自分の手がある感覚というのが正しい使用感になる。

まるで自分の手があるような錯覚に陥る

 このOculus Touchを使ったコンテンツは、Oculus純正の2つのコンテンツのほかサードパーティのデベロッパー(ほぼすべてインディー)が作った9点。合計11点が展示されていた。

「Oculus Touch」デモコンテンツ公式紹介動画

 Oculus Touchを使った、自分の手を使うゲームにはどのようなものがあるのか、すべてのコンテンツを体験した中から、とくに今後のVRコンテンツに革命的な影響を与えるであろう3点のソフト「Toybox」「Medium」「Bullet Train」を紹介したい。

 「Toybox」と「Medium」はいずれもOculusが制作したデモで、いずれも2人で同時に体験できるものだ。「Toybox」はその名称(日本語ではおもちゃ箱)からも想像がつくかもしれないが、Riftを装着すると目の前の机に積み木のようなブロックや光線銃、ロボットのフィギュア、パチンコなどが所狭しと置いてある。それらを掴んで投げたり、引きちぎったり、回転している的に当てたり、一緒に接続しているプレイヤーにちょっかいを出したりといった動作を、現実の動きそのままに体験することが可能。何か目的があるゲームではないが、童心に返って無邪気な気持ちで遊ぶことができる。

「Toybox」

 一方、「Medium」は造形(スカルプティング)ツールだ。VR空間上で粘土を出し、削ったり膨らませたりしながら形を整え、着色や表面加工をして作品を作ることができる。動作は両手で行うが、「Toybox」のような手の動きだけでなく、左手のパレットで“色を塗る”、“形を作る”などといったメニューを開きながら、右手でそのメニューをパレットで色をつけるがごとく選択し、手を動かしていく。Oculus Touchに搭載されたボタンやアナログスティックを利用し、自分の手にさらに造形のためのさまざまな機能を付与している。操作説明を聞いてから使い方に慣れるまではわずか5分程度、誰もがVRでさながら芸術家になってしまえるツールだ。

「Medium」公式紹介動画
「Medium」実況動画。モニターを撮影することができなかったため、たどたどしく実況しながら粘土をこねくりまわす筆者。同じく手の動きに注目していただきたい

 そして、この「Toybox」と「Medium」に共通しているのは“VR内で他のプレイヤーとコミュニケーションをとりながら体験する”点が、その楽しさをさらに倍増させているということ。実際にはいずれも相手はOculusの社員であり、操作方法や遊び方を教えてくれるのだが、VR空間内に顔と手だけが浮かぶアバターながら親近感がわき、一緒に遊んでいる感覚を体験することができる。

「Toybox」で並ぶアバター

 3つ目のOculus Touch用デモ「Bullet Train」は上記2つとは異なり、しっかりとしたゲームだ。ゲームエンジンUnreal Engine 4を提供しているEpic Games社が開発したデモで、駅で銃撃戦を繰り広げるFPSに仕上がっている。開発したチームは第41回で紹介した「Showdown」を制作したチームであり、ただ眺めるだけだったコンテンツからついに遊べるコンテンツへと進化した。

 舞台は地下鉄の駅。プレイヤーはエージェントとなり、敵の待ち受ける駅で拳銃やショットガン、マシンガンなどを使って窮地を切り抜けなければならない。武器を手で掴み、弾を込め、狙いを定めて撃つ、この一連の流れはすべて、Oculus Touchを使って自分の手をその通りに動かして行う。その手の動きが、あまりに現実の手の動きと同じであり違和感がないことに衝撃を受ける体験者も多かった。

 さらに、バレットタイムによって敵の弾丸はスローモーションで見えるようになっており、掴むことができる。その掴んだ弾丸を敵に投げ返すなんていうこともできてしまうのだ。もはや映画『マトリックス』の世界である。

 VRが登場したときにFPSをVRでプレイすることを望む声は多かったが、移動時の酔いなど課題も多かった。この「Bullet Train」では移動にテレポートを採用するなどの工夫により、不快感は一切ない。そして、これまで遊んだどのゲームとも違う“ありのまま”の銃撃戦を楽しむことができる。

「Bullet Train」公式紹介動画。手の動きに注目だ
「Bullet Train」プレイ実況動画。モニターを撮影することができなかったため、たどたどしく実況しながら遊ぶ筆者。同じく手の動きに注目していただきたい

 Oculus Touchの一般発売は2016年第2四半期と発表されており、長い目で見れば今回紹介した3つのデモはごく初期の作品ということになる。それでも、大絶賛したくなるほどの楽しさが実現されている。Oculus Touchによって、VRの体験は新たな次元に突入したといっても過言ではない。今後どのようなコンテンツが登場するのか楽しみだ。

(もぐらゲームス:すんくぼ)