杜のVR部

第31回

Oculus Rift、Project MorpheusなどVRの現状を総括

2015年末から2016年上半期に向けてコンテンツ開発に注目

 Oculus Riftの登場以降、VRHMD(VRヘッドマウントディスプレイ)分野の伸びは著しい。ハードウェアはPC向けだけでも数種類が登場し、さらにはスマホを装着して使用する手軽なVRHMDも登場、一気に増えている。用途もVRゲームを中心に、360度全天周映像を使った体験も登場、ハリウッド映画がプロモーションに使い始めるなど、参入が本格化しつつある。

 本連載は、当初はOculus Rift向けのコンテンツをレビューするため“杜のOculus部”と銘打って2014年10月にスタートした。しかし、他のデバイスで体験できるVRコンテンツも総合的に紹介していくため、この第31回から“杜のVR部”と連載名を改めてお送りしたい。

 名称変更後、初の記事となる今回は、現状発表されている各種VRHMDを一気に紹介しながら、今後どのようなポイントに注目していくかお伝えしていく。

 なお本記事では、VRデバイスを3つの種類に分けて紹介する。1つ目はOculus RiftなどPCやゲーム機に接続してVRを体験するもの。高性能な機器に接続するためより現実に近い体験を可能にする。2つ目はGear VRだ。スマホを使ったVRHMDながら、1つ目のグループに近い、ハイクオリティなVRを体験できる。そして3つ目はGoogle Cardboardに代表される、スマホを装着して使用する簡易的なVRデバイスだ。特定のスマホに縛られることもなく、価格も安価ということで種類が急速に増えている。

 2015年6月時点のVRがどのような状況にあるのか、本記事を通して改めて知っていただければ幸いだ。

PCやPS4などに繋ぐVRデバイス。製品版発売に向けたコンテンツ開発が正念場

 2012年にKickstarterに登場して以来、一連のVR普及の動きの火付け役となり、開発が続けられてきたPC向けのVRHMDがOculus VR社の“Oculus Rift”だ。360度を見渡すことができるヘッドトラッキングは当然のこと、外部のカメラを使った位置トラッキングにより、ユーザーの動きも反映される。また、製品版ではXbox Oneコントローラーが付属するだけでなく、手の動きをトラッキングするためのVR専用コントローラー“Oculus Touch”が開発中だ。2016年第一四半期の出荷を発表している。

Oculus Rift製品版
Oculus Touch

 コンテンツは、CCP GamesのスペースSTG「EVE: Valkylie」を始めとするVRゲーム、そしてOculus VR社が自社のスタジオで制作中のVRシネマなどが体験できるようになる予定だ。製品版を十分に動かすPCとともに購入するためには1,500ドル(約18万円)程度の費用が必要になるなどの懸念はある。しかし、Oculus VR社が行っているVRHMDの性能向上への取り組みは著しく、彼ら自身は製品版の発売を『VRの実現に向けた最初の一歩に過ぎない』としている。引き続き動向に注目したいところだ。

Oculus Rift製品版対応タイトル「Edge of Nowhere」の予告動画

 一方、ソニー・コンピュータエンタテインメントが開発しているのが、PS4向けのVRHMD“Project Morpheus”だ。2014年3月の発表以来、コンテンツ開発については謎に包まれていたが、E3 2015にてUbisoft、バンダイナムコゲームスなどの大手ゲームメーカーが開発中のソフトのデモが展示されたほか、セガやカプコンなども技術デモを展示しており、各社のVRゲームの開発に期待が高まる。

 コントローラーはPS4に付属するDUALSHOCK 4、そしてモーションコントローラーのPlayStation Moveだ。Oculus Riftに比べると解像度の面では劣るが、VRゲームのプレイに特化し、酔い防止やプレイ感など快適なVR体験を重視している。製品版の発売予定は2016年上半期。大小ゲームメーカーによるVRゲームの開発をどの程度促進できるのか、タイトルに注目したい。

今年3月にお披露目された新型Project Morpheus
Project Morpheus対応タイトル「RIGS」の予告動画

 2015年2月末に、PCゲームのプラットフォームSteamを運営するValve社が電撃的に発表したVRシステムが“Steam VR”だ。それを実現するVRHMD“HTC Vive”が2015年末までに発売されることが明らかになっている。Oculus Rift等とほぼ同程度の性能のVRHMDなのだが、Lighthouseと呼ばれる独自の位置トラッキング手法を採用している。部屋の2隅にトラッキング用のセンサーを置き、部屋の空間内に居るプレイヤー、コントローラーの位置を的確に認識することで、よりVRゲームに没入することが可能になる。

 コントローラーは専用のStem VRコントローラー。登場は後発ながらPCゲームの配信プラットフォームを持っているValve社がどの程度コンテンツを集めることができるのか、まだまだ謎は多いが、Oculus Rift、Project Morpheusに次ぐ第3のVRHMDであることは間違いないと思われる。

Steam VRの第一弾となるHTC Vive

視線追跡、広視野角などさらなる性能を持つVRHMDも登場

 2015年末から2016年にかけて発売されるVRHMDは以上だが、他にもPC向けのVRHMDは登場しているのでいくつか紹介しよう。

 2014年に開発が進められていることが明らかになり、現在Kickstarterを行っているPC向けのVRHMDが“FOVE”だ。その最大の特徴は視線を追跡できること。人間が現実で行っている目の動きを正確にトラッキングすることができ、目線で照準を合わせるシューティングゲーム、目線が合うとコミュニケーションができるコンテンツなど、より自然な振る舞いが可能になる。2016年春に開発者版を出荷するということで製品化はまだ先だが、視線追跡がより自然なVRを実現するにあたって必要な技術であることは確実ではないだろうか。

視線追跡が可能なFOVE

 また、E3直前には、210度の視野角と5Kの解像度を誇るVRHMD“Star VR”がスウェーデンのデベロッパーStarbreeze社より発表された。Oculus Riftの視野角100度程度および2K相当の解像度と比べると圧倒的な性能であり、ハイエンドを狙ったVRHMDとも予想できる。発売時期等は未定だ。

視野角210度、5Kの解像度を誇るStar VR

ゲームも映像もいけるが、最終的な着地点を模索するGear VR

 サムスンは、2015年4月からスマートフォンGalaxy S6/S6 Edge用のVRHMD“Gear VR Innnovator Edition for S6”を販売している。Oculius VR社と共同で開発されたもので、Oculus Riftに先駆けて発売された本格的なVRHMDということになる。現在販売されているモデルは開発者とアーリーアダプター向けとされており、年内にコンシューマー向けのモデルを発売すると発表している。

国内で販売中のGear VR Innnovator Edition for S6

 性能的にはOculus Rift製品版には劣るものの、解像度も2K相当、使用するスマートフォンに最適化していることもあり映像は非常に鮮明かつ遅延がないため、没入感は高い。Gear VR向けのコンテンツは専用のプラットフォーム“Oculus Home”で購入・ダウンロードが可能だ。ゲーム、360度実写映像、映画プロモーションなど、さまざまなコンテンツが登場している。

Gear VR向けコンテンツを購入・ダウンロードできるOculus Home

 しかし、PC等に接続するVRHMDと最も異なるのは、位置トラッキングがないこと。没入感の深さには限界があるため、今後Oculus Rift等とどのような差別化を図っていくのか注目したい。

360度映像への対応が進む簡易VRHMD

 Gear VRと同様に、スマートフォンを利用するVRHMDが多く登場している。その中でも最も簡易なものが、“Google Cardboard”と“ハコスコ”だ。

 詳しくは第22回の記事で取り上げているが、いずれも1,000円程度で使うことができる。そして、手持ちのスマートフォンで使用できるものがほとんど。性能はスマートフォンに依存するため、Oculus Riftなどと比較すると没入感は低いが、ジャイロセンサー等を使って360度の体験ができることで、一定程度のクオリティのVRを体験することができる。

Google Cardboard(左)とハコスコ(右)。レンズの枚数が異なるがいずれも1,000円程度で入手可能だ

 ゲームなどの複雑な操作には向いていないため、コンテンツもシンプルな360度の体験などが中心になっている。ハコスコは専用の360度映像共有サイト“ハコスコストア”を用意。Googleが運営するYouTubeも、Cardboardにはまだ対応していないが360度動画のアップロードに対応しているほか、同社は360度映像の作成方法を提供するプロジェクト“Jump”を打ち出しており、今後VRにも対応することが期待できる。

 他にも、スマートフォン向けのVRHMDとしては海外製の“Durovis Dive”や“VR One”、国内製では“タオバイザー”などが登場しているほか、Google Cardboardの設計図を使用したさまざまなVRHMDが発売されている。


 VRHMDは、Oculus Riftなどのハイエンドから、Google Cardboardなどのローエンドまでさまざまな機種が登場している。どの機種においても、一層のコンテンツの充実が図られることは間違いない。とくに製品版が年末から来年上旬にかけて発売されるOculus Rift、Project Morpheus、HTC Viveはコンテンツの充実が求められており、注目が集まっている。

 VRでは、これまでにないどんな面白いコンテンツが登場するのか。今後も本連載“杜のVR部”では、Oculus Riftを中心キラリと光るVRコンテンツを追いかけていきたい。

(もぐらゲームス:すんくぼ)