杜のVR部

第19回

思わず身体を傾けずにはいられない!「INSURGENT: Shatter Reality」

VRシネマ専門のスタジオが制作した、没入感の非常に高いVR体験

 VR向けのコンテンツとしてゲームと同じくらい可能性が感じられるのが、一切操作をせずに体験できるコンテンツだ。VRシネマなどとも呼ばれ、映画やドラマの延長だと考えるとちょうどいいかもしれない。これまでも360度実写ドキュメンタリー「Zero Point」(第2回)や3Dアニメーションオペラ「[NUREN] The New Renaissance」(第16回)を紹介してきた。

 今回紹介する「INSURGENT: Shatter Reality」は約4分で体験できるコンテンツだが、Unreal Engine 4を使ったリアルな描写とワクワクさせる展開が特徴だ。本作は、フランスの開発スタジオKite & Lightningが制作したもの。この3月から劇場で公開中の映画『The Divergent Series: Insurgent』の制作会社であるLionsgate社から依頼を受けて制作されており、映画のキャラクターが登場するものとなっている。

CGに実写が合成された臨場感満点の体験

 本作品にはしっかりとストーリーがある。プレイヤーは“逸脱している人間(ダイバージェント)”だとして囚われの身になり、研究所の椅子に座らせられている。そして、“メンタル・シミュレーション”を受けさせられることになる……。メンタル・シミュレーションの中ではかなり冷や汗をかく展開が待ち受けているので4分程度はあっという間に過ぎ去ってしまう。

 さて、本編がスタートすると目の前にいるのは実際の人間だ。3Dアニメーションの中に実写の人間を合成することで、ドラマ仕立ての演出になっている。合成の技術はかなり高く、VRで見るとまるでそこに居るかのように違和感がない。

タイトル画面も格好いい。ロゴがこちらに向かって砕け散って、本編がスタートする
スクリーンショットだと若干浮いているように見えるが、VRで見るとまるでそこに居るかのよう

 本作の特徴は、“思わず避けたくなる描写”が各シーンの最後に必ずあるということ。たとえば研究所のシーンでは、メンタル・シミュレーションのため身体に端子を接続される描写がある。天井から垂れ下がってくるコードが、ちょうど目の高さあたりで止まり、こちらに端子部分を向ける瞬間は『やめてー!』と叫びたくなる。

逃げたい……

 またメンタル・シミュレーション内では、ビルの屋上でカラスの群れに襲われるシーンと、線路の上に居て汽車が刻一刻とこちらに迫ってくるシーンの2つを体験することになる。繰り返しこちらに迫ってくるカラスの群れには思わず身体を捻りたくなるし、徐々に近付いてくる汽車は眺めているだけで嫌な予感を感じざるを得ない。絶望を感じる迫力だ。

繰り返し襲ってくるカラスの群れ
目の前から線路がどんどん現れて、遠くから汽車が近付いてくるのが見える。あれ?このままだと……

定評のあるスタジオが開発

 VRコンテンツの没入感の深さを計る尺度として、“身体が反応してしまうかどうか”が挙げられる。目の前に何かが迫ってくるコンテンツのリアルさは非常に大きい。第17回でもレポートしたが、GDCで展示されていた映画『ホビット』のシーンを再現したコンテンツ「Thief in the Shadows」にも共通している。「Thief in the Shadows」では、巨大な竜が大きな口を開けてこちらに炎を吐いてくる瞬間、思わず身を縮めてしまった。

 また、“周りを見渡すかどうか”も尺度として重要だ。本作のメンタル・シミュレーションでは、カラスの群れに襲われるシーンが屋上を舞台にしており、思わず周りをキョロキョロ見渡してしまう。音声も3Dサウンドなので、周りから聴こえてくる音に身体が反応してしまう。

屋上のシーン。自分の座っている椅子以外はないので思わずキョロキョロしてしまう

 本作を制作したKite & LightningはVRシネマに定評のあるスタジオで、昨年にはVR向けに非常に美麗かつストーリー性のある作品「Senza Peso」を公開していた。本作でも見られる実写の合成などは前作でも見られたが、没入度は明らかに増していることから、VRでの没入度を活かした表現は着実に進化している。

 こうしたVRシネマの分野の作品は今後さらに増えてくることが予想される。とくに『トランスフォーマー』『ホビット』をはじめとして、ハリウッド映画とのコラボが盛んだ。また、Oculus VR社自身も、現在独自のVRコンテンツを制作中との話であるだけに、今後どんな体験ができるのか非常に楽しみだ。

 なお、本作はWindows版だけでなく、Android版やiOS版もあるため“Google Cardboard”や“ハコスコDX”などのスマホ用VRデバイスでも体験できる。また、日本では未発売の“Gear VR”でも提供されており、各種VRデバイスに対応する形となっている。

「INSURGENT: Shatter Reality」本編映像
本編をすべてこちらの動画で視聴できる。Unreal Engine 4の美麗なグラフィックを堪能していただきたい

ソフトウェア情報

「INSURGENT: Shatter Reality」
【著作権者】
Kite & Lightning
【対応OS】
Windows 7以降(iOS/Android版あり)
【対応ハードウェア】
Oculus Rift DK1/DK2
【ソフト種別】
フリーソフト
【バージョン】
1.1.3(15/03/10)

評価PCスペック(参考)

マウスコンピューター G-Tune NEXTGEAR-NOTE i790SA1
【CPU】
Core i7-4700MQ 2.40GHz
【メモリ】
16GB(増設)
【グラフィックボード】
GeForce GTX870M
【fps】
75fps
【ヘッドホン】
Creative Sound Blaster EVO Zx

(MoguraVR:すんくぼ)