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【第351回】

複数の視点で語られる伝奇ノベルゲーム「御伽噺食堂」

1話ごとに主人公を選択し、主人公同士の好感度によって物語が分岐

(08/09/12)
タイトル画面
   

 『週末ゲーム』では、インターネット上でたくさん公開されているゲームのなかから、選び抜いた良作を毎週紹介していく。今回は、操作キャラクターを切り換えながら物語を読み進めていく伝奇ノベルゲーム「御伽噺食堂」を紹介しよう。

1話ごとに3人の主人公から操作キャラクターを選択

ゲーム画面は1,024×576のワイド表示。左から順に主人公の一人“神楽”、同じく主人公の“河口 亨”、食堂の店主“安倍 茂”
ゲーム画面は1,024×576のワイド表示。左から順に主人公の一人“神楽”、同じく主人公の“河口 亨”、食堂の店主“安倍 茂”
物語の要所要所では、このような一枚絵が表示され物語に彩りを添える。主人公の一人“大守 里子”(右)と親友の“月島 綾乃”(左)
物語の要所要所では、このような一枚絵が表示され物語に彩りを添える。主人公の一人“大守 里子”(右)と親友の“月島 綾乃”(左)
 「御伽噺食堂」は、ゲーム中に登場する選択肢によって物語の結末が変化していく、ノベルタイプのアドベンチャーゲーム。物語の舞台となる“安倍食堂”は、一見どこにでもありそうな普通の食堂だが、心霊事件の解決や妖怪退治といった依頼を請け負う“対妖魔便利屋(ゴーストコンビニエンス)”という裏の顔をもっている。この物語は“安倍食堂”で働く3人の若者たちの、ある夏の5日間の出来事を綴った伝奇ストーリーだ。

 なお本作は同人ソフトとしてパッケージ・ダウンロード販売されており、価格はダウンロード版が1,575円(税込み)など。作者のWebサイトでは、序盤をプレイ可能な体験版が公開されている。

 本作は、エピソード単位で全7話に分割されており、“背後霊システム”と呼ばれる特殊なシステムにより、1話ごとに3人の主人公の中から操作キャラクターを選択してゲームを進めていく仕組み。操作するキャラクターを変更することで、キャラクターたちの行動に干渉して物語の展開や結末をコントロールすることが可能なほか、繰り返しプレイすることにより1つの出来事をほかのキャラクターの視点から楽しむことができる。

 物語の主人公となるのは、食堂でアルバイトとして働く青年“河口 亨(かわぐち とおる)”、同じくアルバイトの女子高生“大守 里子(おおもり さとこ)”、住み込みで働く美しい女性“神楽(かぐら)”の3人。それぞれ、“河童”や“なまはげ”、“かぐや姫”といった妖怪や神様などの血を引いており、式神や、悪しき者のみを斬り裂く包丁といった霊能力や特殊能力を武器に事件を解決していく。

 主人公たちのほかにも、安倍晴明の血を引く陰陽師で食堂の中年店主“安倍 茂(あべ しげる)”、里子の親友でクラスメイトの“月島 綾乃(つきしま あやの)”、神楽の年下の友達で食堂の近所に住む小学生“夏目 梢(なつめ こずえ)”、旧友の亨に相談ごとを持ちかけてくる青年“朝顔 晴海(あさがお はるみ)”など、さまざまなキャラクターたちが登場する。


静止画ながらまるでアニメーション作品のような、凝ったプロローグも用意されている   戦闘シーンでもプロローグ同様テンポよく静止画を表示することで、スピード感あふれる展開を演出
静止画ながらまるでアニメーション作品のような、凝ったプロローグも用意されている   戦闘シーンでもプロローグ同様テンポよく静止画を表示することで、スピード感あふれる展開を演出

“背後霊システム”で好感度を操作して望みの結末へとたどり着こう

本作のキモとなる“背後霊システム”によるキャラクター選択画面
本作のキモとなる“背後霊システム”によるキャラクター選択画面
プレイ中は、操作中の主人公に対する好感度をチェックできるほか、キャラクター選択画面では各主人公に対する好感度をそれぞれチェック可能だ
プレイ中は、操作中の主人公に対する好感度をチェックできるほか、キャラクター選択画面では各主人公に対する好感度をそれぞれチェック可能だ
 本作の最大の特徴となる“背後霊システム”だが、これは操作キャラクターの切り替えと、“好感度”による物語の分岐をうまく組み合わせたもの。“好感度”とは、恋愛アドベンチャーゲームなどでお馴染みのパラメーターで、物語中の選択肢によって主人公に対するヒロインの好意の度合いが上下し、それによってヒロインの態度や物語の展開、結末などが変化するというものだ。本作においてもこの点は変わらず、前半の日常パートで仲良くなったキャラクター同士が2人または3人でタッグを組む形で、後半の妖怪退治パートで行動を共にすることになる。

 「御伽噺食堂」が一般の恋愛アドベンチャーゲームと大きく異なるのはここからだ。通常なら主人公に対するヒロインの好感度だけが焦点となるが、本作の場合は主人公が3人いるため、キャラクター同士がそれぞれほかのキャラクターに対する好感度をもっている。たとえば、里子が亨をどう思っているかだけでなく、亨が里子をどう思っているのかもポイントとなるわけだ。

 ここで重要になってくるのが、1話ごとに主人公となるキャラクターを選択して操作するという点だ。たとえば物語を亨の視点で進めている間でも、里子と神楽の視点による物語も同時に進行しているのだが、プレイヤーが操作していない里子と神楽は、基本的に好感度に従って勝手に行動する仕組みになっている。これに対して、当たり前だが操作中の亨はプレイヤーが自由に選択肢を選べる。見方を変えれば、操作中のキャラクターだけは好感度に左右されずに自由な行動を取ることができるわけだ。

 つまり、操作キャラクターを適切に選択することで、キャラクター同士の好感度に影響を与えられるのはもちろん、展開によっては物語の結末に大きく関わるような選択肢を自由に選べるため、物語の展開に効率よく干渉することが可能となる。

 文章にすると少々伝わりにくいかもしれないが、本作にはサブキャラクターの綾乃と梢が“背後霊システム”について丁寧に解説してくれるチュートリアルも用意されているので、まずはこれに一通り目を通してからゲームを始めるといいだろう。

 なお、本作ではゲーム中の選択肢によって相手キャラクターの好感度が変動するのはもちろんのこと、相手の反応によっては操作中の主人公の相手に対する好感度も大きく変動する場合があるので、攻略時には注意しよう。また、好感度の状態によっては選択肢自体が表示されない場合や、逆に好感度に関わらずプレイヤーが直接選択しない限り展開が変わらない場面などもあるので、全エンディング制覇を目指す場合にはこういった部分にも注意してプレイするとよいだろう。


2周目以降にはまじめな選択肢だけでなく、突拍子もない選択肢も登場する。好感度に意外な影響があるかも?   ゲームのプレイ方法や“背後霊システム”を親切に紹介してくれるチュートリアルも用意されている
2周目以降にはまじめな選択肢だけでなく、突拍子もない選択肢も登場する。好感度に意外な影響があるかも?   ゲームのプレイ方法や“背後霊システム”を親切に紹介してくれるチュートリアルも用意されている

繰り返しプレイによっていくつもの結末と細かなイベントの変化が楽しめる

 本作は、画像や音楽による演出に力が入っているのも特徴の1つだ。表情豊かなキャラクターの立ち姿を描いたイラストや、物語の要所要所で画面全体を使った1枚絵が表示されることに加え、キャラクターや戦闘相手に応じたテーマ曲が流れ、物語に彩りを添えてくれる。また、戦闘シーンでは、何枚もの静止画を次々と表示したり、効果音を挿入したりすることで、文章だけでは表現が難しいスピード感あふれるアクションをうまく表現している点にも注目したい。なお、画面解像度には1,024×576を採用しており、ワイドモニターでフルスクリーン表示を選べば、画面一杯の迫力ある画像を楽しむことができる。

 さらに、物語のプロローグでは、高品位な静止画を文字と共にテンポよく表示することで、まるでアニメーション作品を見ているような気分にさせてくれる。また、クリア後のスタッフロールが、ボーカル曲に乗せてその回のプレイで見たCGだけを次々と表示する、ちょっとした名場面集になっている点も大いに気分を盛り上げてくれるはずだ。

サブキャラクターにも好感度は設定されており、物語の展開によってはいい雰囲気になることも
サブキャラクターにも好感度は設定されており、物語の展開によってはいい雰囲気になることも
 このように見どころの多い本作だが、最大の魅力はやはり豊富なストーリー分岐と複数主人公による視点の変化だろう。タイトル画面には“エンディングリスト”や“CG ビューワ”といった項目が用意されているが、これらの内容を全て埋めるには何度も繰り返しプレイすることが必要となる。こうした周回プレイはともすれば作業的になってしまい、途中で飽きてしまうことも少なくないが、たとえ同じ結末を迎えた場合でも、途中で選んだ選択肢やキャラクターたちの好感度によって、物語にちょっとした変化が起こったり、1つの出来事を複数キャラクターの視点で眺めることによって『このときこのキャラクターはこんなことを考えていたのか』といった新鮮な発見があったりと、プレイヤーを飽きさせない工夫が随所に凝らされている。

 また、1周は約1時間程度と短時間で読めるほか、一度読んだ文章を高速にスキップする機能も用意されているので、1回1回を気軽に読めるのもうれしい。さらに、ゲーム中のキャラクターとの「リバーシ」対戦と、ちょっとした後日談が楽しめる“追加パッチ”も作者サイトからダウンロード可能となっている。秋の夜長のお供に、気軽に読めて何度も楽しめる本作は最適の作品だ。


エンディング後のスタッフロールではバックにその回のプレイで見たCGが表示され、ちょっとしたリプレイになっているのも心憎い演出だ   作者サイトからダウンロードできる追加パッチを導入すれば、ゲーム中のキャラクターとの「リバーシ」対戦も楽しめる
エンディング後のスタッフロールではバックにその回のプレイで見たCGが表示され、ちょっとしたリプレイになっているのも心憎い演出だ   作者サイトからダウンロードできる追加パッチを導入すれば、ゲーム中のキャラクターとの「リバーシ」対戦も楽しめる

【著作権者】Inverse Kinematics
【対応OS】Windows 98/Me/2000/XP
【ソフト種別】体験版(完成版はダウンロード販売 1,575円(税込み)など)
【バージョン】1.0.1(08/04/02)
【ファイルサイズ】本体 104MB、修正パッチ 2.15MB

□オリジナル同人ゲームサークル- Inverse Kinematics - <トップページ>
http://ik-web.sakura.ne.jp/

(霧島 煌一)




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