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【第331回】
伝奇ノベルゲーム「茜街奇譚 -Akanemachi kitan-」人と“鬼”――相容れない者同士が共棲する架空の街を舞台にした現代御伽噺
(08/02/29)
『週末ゲーム』では、インターネット上でたくさん公開されているゲームのなかから、選び抜いた良作を毎週紹介していく。今回は、人と鬼が共に生きる架空の街「茜街」を舞台に、とある事件を描いたノベルゲーム「茜街奇譚 -Akanemachi kitan-」を紹介しよう。
架空の街“茜街”を舞台にした“現代御伽噺”「茜街奇譚 -Akanemachi kitan-」は、“鬼”と呼ばれる伝説や民話の中でのみ語られるような存在が登場する物語だ。彼らはかつて人間と争っていたが、今では増え過ぎた人間と文明の光に追いやられ、人の目を逃れて細々と生きている。物語の舞台となる架空の街“茜街”は東京にありながら、そうした人外の存在が隠れ生きていく余地のある場所として描かれており、相容れない者同士が共に生きるとはどういうことなのかをテーマに物語が紡がれていく。
この物語で語られる事件の中心となるのは、“加倉井 元子(かくらい もとこ)”と妹の“智子(ともこ)”という仲むつまじい姉妹だ。同じマンションの部屋で暮らす二人は動物園へと連れ立って出かけた帰り道、何者かに後をつけられてしまい二手に分かれて帰宅することになる。翌日、帰ってこない智子を探し回る元子は、とある予感に導かれ足を踏み入れた路地裏で、想像を絶する光景を目の当たりにする……。
複数キャラクターの視点から事件の全貌が明らかにされていく
本作には加倉井姉妹のほかにも、ぼさぼさの長髪に無精髭のさえない中年男“望月 公信(もちづき きみのぶ)”や、彼と行動を共にする美女“藤原 姫乃(ふじわら ひめの)”、元子の高校時代のクラスメイトで居酒屋の看板息子“五十嵐 道郎(いがらし みちお)”など、さまざまなキャラクターが登場する。物語はこれら複数のキャラクターたちの視点を切り替えながら三人称で語られ、徐々に事件の全体像が明らかになっていく。
本編の結末に応じて後日談などの追加エピソードが楽しめる
さらに、本編についても2周目から細かいエピソードが追加されるので、クリア後にもう一度読んでみることをお勧めしたい。再読する際にはメニューバーの[次の選択肢/未読まで進む]を利用することで、一度読んだ文章をスキップできる。 ちなみに、プロローグは一度読むと表示されなくなるので、あとから読み返したい場合はマウスの右クリックで表示されるメニュー画面から、あらかじめセーブしておくといいだろう。
派手さはないがツボを押さえた演出と読みごたえのある文章が魅力
肝心のストーリーに関しても、“鬼”という人間にとって脅威となる存在を扱いながらも、単純な対立関係にとどまらない描写がなされており、より深みのある物語を楽しむことができる。また演出面でも、物語が淡々と進むなか、突然“鬼”の目の不気味なカットイラストが表示されたり効果音が鳴ったりと、普段の控えめな演出がかえって読者に強いインパクトを与えるスパイスになっている。
ここまで紹介してきたように、本作はシステム面でも内容面でも、より紙の小説に近い内容となっている。それでいて、ストーリーの分岐や画面と音による演出効果など、紙の本ではまねのできないゲームならではのよさもしっかりと活きているのが魅力。普段小説は読むけれどゲームはあまりプレイしないという人や、ノベルゲームには興味があるけれどアニメ調の絵柄にはちょっと抵抗があるという人へ、とくにお勧めしたい作品だ。
【著作権者】NO-HOPE
□Lyrical-Deli [詩的廃屋] (霧島 煌一)
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