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【第292回】

中編ノベルゲーム「TRUE REMEMBRANCE-remake-」

悲しい記憶をもった人々が訪れる白い街を舞台にした、せつなくも温かな物語

(07/02/16)
タイトル画面
   

 インターネット上で公開されているゲームは、大手メーカーが制作・販売している大作から、個人が趣味で制作して無料で公開しているものまで、ジャンルや価格を問わず、さまざまなものが存在している。しかし、公開されているゲームの数が多すぎて、どんな作品が存在し、どの作品が本当に面白いのかを判断できずに困っている方も多いだろう。そこで『週末ゲーム』では、インターネット上でたくさん公開されているゲームのなかから、選び抜いた良作を毎週紹介していく。今回は、「悲しみの記憶」をテーマに、青年と少女のちょっと変わった共同生活を描いたノベルゲーム「TRUE REMEMBRANCE-remake-」を紹介しよう。

架空の街を舞台に、青年と少女の不思議な共同生活が始まる

人々の「悲しみの記憶」を取り除く“記憶封士”である主人公“黒目”と、彼の“お客さま”でどこか不思議な少女、ヒロインの“ラ”
人々の「悲しみの記憶」を取り除く“記憶封士”である主人公“黒目”と、彼の“お客さま”でどこか不思議な少女、ヒロインの“ラ”
物語の要所要所では一枚絵のイラストが表示され、物語に彩りを添える。淡い色使いが作品の雰囲気にマッチしている
物語の要所要所では一枚絵のイラストが表示され、物語に彩りを添える。淡い色使いが作品の雰囲気にマッチしている
 「TRUE REMEMBRANCE-remake-」の物語は、“黒目”と呼ばれる主人公の青年が乗った列車が、どこか作り物のような雰囲気をもつ白い街の市街区域、八番街の駅に到着するところから始まる。今にも雪が降り出しそうな灰色の空の下、主人公は街外れにある丘の上の古い建物を目指す。ついに雪が舞い降り始める中、彼は、玄関の前にひとりたたずみ涙を流し続ける少女“ラ”と出会った。この日から“ガイド”役の青年と“お客さま”の少女、ふたりの共同生活の幕が開ける。

 本作は、ノベルタイプのアドベンチャーゲーム。ゲーム画面には、実写による背景画像とともに、さまざまな表情やポーズが用意されたキャラクターイラストが表示され、画面下部にある映画のフィルムを模したメッセージ表示ウィンドウの文章を、マウスクリックで読み進めていく。物語は一話完結方式となっており、途中、選択肢などは一切用意されていない。一話あたり20分程度で読むことができ、ゲーム全体の総プレイ時間は2~3時間ほどだ。

 物語の見せ場では、画面全体を使った一枚絵が表示され、ゲームを盛り上げてくれる。プレイ中は、右クリックでメニュー画面を呼び出すことができ、文章表示を消してイラストをじっくりと鑑賞したり、セーブ・ロード機能を利用可能だ。また、キーボードの[Shift]キーを押すことで、過去に読んだ本文をさかのぼって表示する履歴機能を呼び出すこともできる。

ちょっと変わった世界観とテーマの掘り下げが魅力

人づきあいが得意ではない“黒目”だが、“ラ”との共同生活に不思議と温かなものを感じはじめる
人づきあいが得意ではない“黒目”だが、“ラ”との共同生活に不思議と温かなものを感じはじめる
 「TRUE REMEMBRANCE-remake-」は、“セツナ病”という病によって、自殺者が増え続けている世界を舞台とした物語。主人公が暮らす白い街は、セツナ病の対策のために国が作った街だ。セツナ病を患った人々は、自分では抱えきれないほどの悲しみや不安といった“錆色の記憶”を取り除くため、この街を訪れる。主人公たち“記憶封士”は、そんな“お客さま”に街を案内し、楽しんでもらいながら錆色の記憶を探して、これを“記憶処理”によって封じるのが仕事だ。そして、錆色の記憶を思い出すのを防ぐため、この街を去る人々に、この街での記憶が残されることはない。必ず訪れる別れをにじませつつ物語は展開していく。

 本作には主人公の“黒目”とヒロインの“ラ”に加え、この街の六番街で喫茶店“AROMA”を経営する“黒目”の同僚“キョウ”や、キョウの紹介で“お客さま”として“黒目”たちのもとを訪れる少年“マルシェロ”、軽度のセツナ病患者で記憶処理を受けるために街へ不法侵入してきた女性“イリーナ”、“黒目”とキョウの上司“右手”といった、さまざまなキャラクターたちが登場する。

左から、“黒目”の同僚で喫茶店のオーナー“キョウ”と、記憶処理を受けるために街へ不法侵入してきた女性“イリーナ”。このほかにもさまざまなキャラクターたちが登場する   ときにはこのように緊迫した展開も
左から、“黒目”の同僚で喫茶店のオーナー“キョウ”と、記憶処理を受けるために街へ不法侵入してきた女性“イリーナ”   ときにはこのように緊迫した展開も

オープニングとエンディングでは、ムービーとともにオリジナルソングが流れる
オープニングとエンディングでは、ムービーとともにオリジナルソングが流れる
 「TRUE REMEMBRANCE-remake-」は、特殊な設定とテーマの掘り下げが魅力となっている作品だ。さまざまな過去や背景をもったキャラクターたちの存在をとおして、「悲しい記憶を消す」という行為がもつ意味が語られていく。キャラクターのちょっとした仕種を丹念に描写した文章と、表情の些細な変化をうまくとらえたイラストが、ヒロイン“ラ”の可愛らしさや、キャラクターたちの微妙な心理状態を見事に表現している点にも注目だ。また、オリジナルのボーカル曲がついたオープニング・エンディングムービーや、モノトーンイラストで描かれた写真をバックに語られる各話のイントロなども、独特の雰囲気の演出に一役かっている。

 本作は一話完結方式により少しずつ読めることに加え、各話ごとにゲストキャラクターが登場したり、主人公ではなく“ラ”の視点で語られるエピソードがあったりと、読者を飽きさせない展開で読み進めやすいのも特徴。さらに全体的なストーリーの長さからは想像できない充実した物語が展開されるので、ノベルゲームをあまり読んだことのない人はもちろん、これまで数多くのノベルゲームに触れてきた人にも、広くお勧めしたい作品だ。

物語は一話完結方式で進み、各話の始めには、話の展開を暗示するイントロが挿入される   イラストやオープニングムービー鑑賞、物語の背景紹介など、クリア後のおまけも充実している
各話の始めには、話の展開を暗示するイントロが挿入される   イラストやオープニングムービー鑑賞、物語の背景紹介など、クリア後のおまけも充実している

【著作権者】里見 しば 氏
【対応OS】Windows 98/Me/2000/XP
【ソフト種別】フリーソフト
【バージョン】1.03
【ファイルサイズ】44.8MB

□TRUE REMEMBRANCE
http://true-re.sakura.ne.jp/

(霧島 煌一)




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