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【第259回】

青春放浪ノベルゲーム「homeless, the vagabond」

演奏と放浪の旅を続ける男女3人の、騒がしくも充実した日々を描いた物語

(06/03/17)
タイトル画面
   

 インターネット上で公開されているゲームは、大手メーカーが制作・販売している大作から、個人が趣味で制作して無料で公開しているものまで、ジャンルや価格を問わず、さまざまなものが存在している。しかし、公開されているゲームの数が多すぎて、どんな作品が存在し、どの作品が本当に面白いのかを判断できずに困っている方も多いだろう。そこで『週末ゲーム』では、インターネット上でたくさん公開されているゲームのなかから、選び抜いた良作を毎週紹介していく。今回は、演奏をしながら放浪の旅を続ける男女3人の物語を描いた、ノベルゲーム「homeless, the vagabond」を紹介しよう。

電車で偶然出会った少女“小田原 塔子”。自分を変えたいと、旅への同行を希望する
電車で偶然出会った少女“小田原 塔子”。自分を変えたいと、旅への同行を希望する
立川のバーで主人公を待ち伏せていた少女“六 深菜”。ショパンコンクール準優勝の有名人だ
立川のバーで主人公を待ち伏せていた少女“六 深菜”。ショパンコンクール準優勝の有名人だ
 「homeless, the vagabond」は画面下部に表示される文章を読み進めていく、ノベルタイプのアドベンチャーゲームだ。物語は放浪生活を続けていた主人公“津田 啓(つだ けい)”が電車で財布を失くしてしまうところから始まる。結局その日、彼は電車のボックス席に居合わせた同年代の少女“小田原 塔子(おだわら とうこ)”に放浪生活の話をせがまれるまま、彼女のアパートで厄介になることとなった。

 その夜、啓はブラスバンドの経験があるという塔子を街での音楽演奏に誘う。彼は日本各地のバーで演奏することで、日々の糧を得ていたのだ。最初は啓の演奏に圧倒されるばかりの塔子だったが、啓のリードで一転、演奏は盛り上がりをみせるのだった。翌日、塔子は啓に放浪への同行を希望し、啓はそれを受け入れる。さらに有名ピアノ奏者“六 深菜(りく みな)”も加わり、バンド“homeless, the vagabond”の演奏と放浪の旅が始まった……。

 ゲームは主人公の視点で展開していき、途中何カ所か登場する選択肢のどれを選ぶかで、異なった結末をむかえることになる。画面には文章のほか、キャラクターの立ち姿を描いたイラストと実写を加工した背景画が表示される。また操作は、マウスクリックで次の文章へと読み進められるほか、右クリックでメニュー画面を呼び出して設定の変更やセーブ、ロードが行える。さらにこれまで読んだ文章を再表示したり、文章を一時的に非表示にしてイラストと背景画だけを鑑賞できる。


物語の節目では駅名看板風のタイトルが日付とともに表示され、旅情を演出する
物語の節目では駅名看板風のタイトルが日付とともに表示され、旅情を演出する
オープニングでは、オリジナル曲に乗せてFlashムービーが再生される
オープニングでは、オリジナル曲に乗せてFlashムービーが再生される
 主人公たちは深菜と出会った立川を皮切りに、大宮、川越、前橋、長岡と北を目指して演奏の旅を続けながら、バーのマスターや客たちと音楽を通じて交流を深めていく。移動などによるシーンの区切りには、駅名看板風に物語の舞台となる土地の駅名が日付とともに表示され、列車での旅を印象づけてくれる。

 また、本作のBGMには『おゝスザンナ』から『軍艦マーチ』までジャンルの垣根を超えたさまざまなアレンジ曲に加え、オープニングのFlashムービーをはじめとするオリジナル曲も複数用意されている。主人公たちの演奏を文字だけでなく実際に耳からも楽しませてくれるのは本作の大きな魅力の1つ。なお、BGMの多くにはMIDIが使用されている。もちろんWindows標準のソフトウェア音源でも再生できるが、本格的なMIDI音源を用意すれば、より魅力的な演奏を聴くことができる。

 本作はやや癖のある絵柄や、塔子のボケ倒しなギャグをはじめとした個性的過ぎるキャラクター描写など、少々取っつきにくさを感じさせる要素もある。たとえば主人公も、読み始めの時点では一部の恋愛アドベンチャーゲームにありがちな、意味不明のセリフを連発する斜に構えたキャラクターのように感じられてしまう。しかし物語が進むなかで、彼なりの人生哲学や音楽へのひたむきさに触れるうちに、欠点に思えた部分もだんだんと『味』に感じられるようになってくる。アクは強いがそのぶん心に引っ掛かり、なんだか気になる存在になってくるのだ。


放浪生活中の日記を塔子に見せる主人公。この日記がのちのち重要な役割を果たすことに……
放浪生活中の日記を塔子に見せる主人公。この日記がのちのち重要な役割を果たすことに……
 また物語中、主人公はある事件をきっかけに、放浪生活を続けてきた過去の自分を正面から見つめ直すことになり、状況に悩み戸惑いつつも、周囲の助けを借りて自分なりの答えを見つけていく。さらにちょっとした三角関係のドラマもあり、単なるドタバタで終わらないところも本作の魅力の1つだろう。主人公たちが演奏するノリのよいアレンジに乗せて描かれる夏の日々は、彼らの演奏にも似た勢い任せの狂躁っぷりで、青春のひとコマを強く印象づけている。現在制作中という続編にも大いに期待したい。


主人公たちの演奏はさまざまなBGMで表現される。曲名がスライド表示される演出も   ときにはちょっとした三角関係も? 男1人に女2人、微妙なバランスで旅は続く
主人公たちの演奏はさまざまなBGMで表現される。曲名がスライド表示される演出も   ときにはちょっとした三角関係も? 男1人に女2人、微妙なバランスで旅は続く

【著作権者】ヲサカナソフト
【対応OS】(編集部にてWindows XPで動作確認)
【ソフト種別】フリーソフト
【バージョン】β
【ファイルサイズ】17.7MB

□WOSAKANA
http://wosakana.hp.infoseek.co.jp/

(霧島 煌一)




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