.

【最終回】

オンラインソフトゆく年くる年
~2001年の話題をさらったソフトたち~

(01/12/17)

今年もイロイロありました…

 早いもので今年もあと半月足らず。ほぼ1年続いたこの連載も、今回で最終回を迎えることになった。21世紀の幕開けとなった2001年は、米国同時多発テロや狂牛病問題のように暗いニュースの目立つ年だったが、オンラインソフトの世界でも実にいろいろなことがあったように思う。そこで今回は、今年あったオンラインソフト関連のニュースや今年話題をさらったソフトの中から、ぼくの目で見て特に印象深かったり衝撃的だったものを振り返り、少し早いがこの1年、そしてこのコラムの締めくくりにしたいと思う。読者の皆さんは、どんなオンラインソフトや関連ニュースが印象に残っているだろうか。

私的オンラインソフト10大ニュース

 ぼくにとっての「2001年オンラインソフト10大ニュース」をあげると、次のような順位になる。

1. ファイルシェアソフトの流行と日本で世界初の逮捕
2. IEなどのセキュリティホールを狙ったウイルス大流行
3. Windows XP登場
4. オートアップデーター登場
5. “2ちゃんねる”の影響強し
6. フリーの開発ソフトが充実
7. ケータイ連動&迷惑メール対策ソフトが流行
8. ブロードバンド関連ソフトが人気
9. 分散型コンピューティングが日本でも注目を浴びる
10. 新しい圧縮形式&画像形式が普及し始める

 この中では、1~3位は割とすんなり挙げることができたが、4位以下はけっこう悩んだ末にこのように並べてみた。これらのうち主なニュースについて少しコメントしてみたい。

衝撃的だった「WinMX」事件

 今年1年を振り返ってみてやはり最も衝撃的だったと言えるのが、つい先月「WinMX」で逮捕者が出たあのニュースだ。第37回のよもやま話で大きくとりあげたので改めて詳しく書くことはしないが、ユーザー同士でファイル交換ができる海外製フリーソフト「WinMX」を使って多数の市販ソフトウェアを“公開”していた男性ら2人が、著作権侵害(公衆送信権の侵害)の疑いで警察に逮捕されたという事件だった。

 ファイルシェアソフトは「Gnutella」にしろ「Napster」にしろ、昨年以前からテレビなどでも取り上げられ、著作権侵害などの問題点が指摘されてはきた。しかし実際に逮捕者が出たのは世界的にも今回が初めてとなる。逮捕事件の直前までは、たとえばあるソフトウェア関係の掲示板などではスレッドの半分近くが「WinMX」に関するもので占められるというような状況だったし、10月には日本語版のファイルシェアソフトが登場して話題になったのを覚えている人も多いだろう。そうしたファイルシェアソフト人気の流れが、先日の逮捕事件によってどう変わっていくのか、事件の今後のゆくえと共に気になるところだ。

ユーザーのセキュリティ意識が問われたウイルス大流行

 “Nimda”や“Badtrans.B”などに代表される、IEやOutlook(Express)のセキュリティホールを狙ったウイルスの大流行も今年の大きな事件だったと言えるだろう。もちろんコンピューターウイルスは、かつても“Happy99”や“Melissa”などのウイルスがテレビや新聞のニュースとして取り上げられたこともあったし、もはやウイルス流行といっても、それ自体は決して珍しいものではなくなっている。大流行したウイルスについては駆除を行うフリーソフトがインターネットで配布されるというのも、ありがたいことにほぼ恒例となった感がある。

 しかし今年のウイルス騒動で最も問題なのは、同じようなセキュリティホールを狙った感染力の強いウイルスが繰り返して大流行してしまった点にあるように思う。つまり、それだけユーザーのセキュリティ意識の薄さが露呈したことでもあり、またオンラインソフト的な視点で言えば、セキュリティパッチが公開されてもアップデートを行わない、もしくはパッチ公開そのものに気付かないユーザーが多いということの表れでもある。もちろん“Badtrans.B”などはセキュリティパッチをあてたからといって必ずしも感染を防止できるわけではなく、パッチをあてても感染してしまったユーザーは少なくないかもしれない。しかし、こうしたセキュリティについてのユーザー意識に由来する問題要因への対策も、ウイルスそのものへの対策と同時に今後求められるのではないだろうか。

満を持して登場したWindows XP

 この秋にWindows XPが登場したのも、今年の大きなニュースだ。これもよもやま話の第35回・第36回で取り上げたように、オンラインソフトの世界にとっては単なる新しいOSへの対応という意味だけでなく、いろいろな面で影響は大きいだろうと思う。不況の影響もあってかWindows 98が出た当時に比べるとWindows XP購入の出足は遅いという話も聞いているが、ぼくの周囲で実際に使った人の話を聞いてみても評判はまずまず、悪くないようだ。普及のカギはまさに今のクリスマスシーズン、そして来年前半ということになるだろうか。

 あれからぼくは、ほぼ毎日のようにWindows XPのProfessional Editionを使っている。今のところWindows XPとオンラインソフトに関してさらに気がついたこととしては、Windows XPでの動作確認をしたと作者が述べているソフトの中にもちょっとした動作不具合が出るものがあったり、例えば“簡易ユーザー切り換え”の機能を使う上でユーザーごとにデータを使い分けることができないといったことがちらほら目立っている。また、Windows XPそのものについても、一度アンインストールしてから再インストールしようとしたときにトラブルが発生してサポート窓口のお世話になったことがあるし、OSとしての安定性についても決してパーフェクトではないようで、この1カ月の間にはオンラインソフトの使用中にシステムフリーズして何度かWindowsを再起動するハメになったことがある。Windows XPの真価が本当にわかるのは、この冬これからということになりそうだ。

オートアップデーターが変える安全性

 オンラインソフトを自動でアップデート、もしくはアップデート通知をするための“オートアップデーター”がオンラインソフトとして登場したのも、個人的には今年のニュースの中で非常に興味深いひとつとしてあげられる。オンラインソフトのアップデート作業は意外に手間がかかるもので、最新版リリースのチェックを怠ったり後回しにして忘れてしまうというのもよくあることだ。それをソフトが自動でやってくれるオートアップデート機能がユーザーにとって非常に便利というのはわかっていても、作者にはそうした機能を組み込むためにかかる手間と時間が頭の痛いところ。そんなオートアップデート機能を汎用にして独立させたようなオートアップデーターの登場は、多くのオンラインソフト作者に福音となる画期的なものだと思う。

 また、オートアップデート機能は、単にユーザーが使って便利というだけでなく、場合によってはインターネット社会の大きな被害を防ぐ手段としても有効になる可能性がある。たとえばもし、広く普及しているオンラインソフトにおいて、悪意あるハッカーやウイルス作者が狙いやすいようなセキュリティホールが見つかった場合に、オートアップデート機能によって迅速にセキュリティホールをふさぐことができれば、ひいてはウイルス蔓延などの社会的な被害を防ぐことにもつながる。ただし、よもやま話の第30回・第31回で書いたように、作者が気付かないうちにウイルス感染してしまった新バージョンのソフトをオートアップデート機能が広めてしまうという危険な側面がないわけではない。さらにオートアップデート機能自体にセキュリティホールが生まれるという可能性も否定はできない。そうした課題も含めて、“オートアップデーター”が今後も注目されることには間違いないだろう。

“2ちゃんねる”がオンラインソフトにおよぼした影響

 昨年、西鉄バスジャック事件などで社会的にも注目された掲示板サービス“2ちゃんねる”だが、今年はオンラインソフトの世界でもなにかと話題になった。“2ちゃんねる”を見やすく、より便利に使うための専用ブラウザーが複数登場し、そのニュースが窓の杜で記事アクセスランキングの上位に入るということもあった。また、そんな“2ちゃんねるブラウザー”を共同で開発するような動きがあったり、良質なオンラインソフトが“2ちゃんねる”の掲示板で有名になって普及したりといったこともある。その一方で、特定のオンラインソフトに対しての誹謗中傷やバッシングなどもあり、それを苦に開発を中止するソフトも出てくるなど、いろいろな面で影響をうけたオンラインソフトは多かったのではないだろうか。

 “2ちゃんねる”のような匿名掲示板はいわば諸刃の剣のようなものなのだろうとぼくは思っている。あるニュースキャスターの言葉を借りれば“便所の落書き”とも言えるような、読むに足らない、あるいはひどい誹謗中傷のカキコミが目立つということも確かにある。第26回のよもやま話で少し書いたが、オンラインソフトをめぐるトラブルも多いようだ。しかし、匿名性の高さが幸いしてユーザーの率直でまじめな意見が読めることもあるし、上述のようなユニークな活動が盛んになっているということもある。それはちょうどインターネットそのものと同じで、要は受け取り方、使い方次第なのだろう。もし今もバッシングを受けて悩んでいる作者がいるなら、発想の転換で前向きに解決できないかどうかを考えてみるのもいいかもしれない。

6位以下のニュース

 10大ニュースの6位以下にあげたものは、窓の杜をいつも見てくださっている読者の皆さんなら『なるほどアレか』と思ってもらえるのではないかと思うが、このうち6位の「フリーの開発ソフトが充実」というのは、オンラインソフト開発者に愛用者も多いボーランドのあの「Delphi 6」にフリーソフト版が登場したことを始め、スクリプトに日本語が使える開発ソフトなど、さまざまな開発環境が充実してきたというものだ。従来からWindowsは開発環境を整えるだけでお金がかかるというのが定説で、そのためにカンパを求めるソフトやシェアウェアが増えたという話もあるくらいだ。しかし今後は多くの選択肢の中から目的に応じて開発ソフトを選ぶことができるようになった。したがって来年以降もオンラインソフトの世界は充実が期待できそうだ。

 9位のブロードバンド関連ソフトとしては、「NetTune」に代表されるWindowsの通信速度チューンアップソフトや、「Webベンチ」のように通信速度を実測するソフト などが登場して人気となっていることがあげられる。しかし、今年が“ブロードバンド元年”と言われる割に、個人的にはブロードバンド環境を活かしたソフトが意外と少なかったように感じている。文字通り“元年”だけに、本格的な普及は来年以降ということになるのかもしれない。

2002年、オンラインソフトの世界はどうなる?

 では来たる2002年、オンラインソフトの世界がどうなるかをちょっと考えてみよう。2001年からの流れをみると、セキュリティへの意識はさらに高まり、既存のオンラインソフトでもセキュリティ関連の機能強化が図られる可能性はありそうだ。また、インターネットの常時接続やブロードバンド環境を前提にしたソフト、たとえば第4回のよもやま話で取り上げたような常にオンラインで使用する元祖“オンライン”ソフトがさらに増加することも考えられる。そのほか、Windows XPに影響を受けるソフトがいろいろと出てくることも容易に予想できる。たとえばWindows XPに搭載されているライセンス認証システムなどは、不正使用対策としてシェアウェアの間で広く普及してもおかしくないほどだと思うし、またそういうライセンス認証システム自体をシェアウェアに提供するような汎用のオンラインソフトが登場、なんてこともあるかもしれない。

 ただ、全体的にはここ数年、誰もがあっと驚く画期的なオンラインソフトが出ていないということもぼくは強く感じている。もちろん全くないわけではないのだが、かつて「Netscape Navigator」を初めて触ったときのようなレベルの驚きが、ここ数年なかったように思うのだ。そろそろ来年あたり、ぼくが想像もできないようなオンラインソフトの“新星”が登場しそうな予感がしないでもないのだが…。

 そんな期待と不安を胸に秘めながら、来年もオンラインソフト情報には窓の杜をどうぞよろしく、ということでこの「オンラインソフトよもやま話」は締めくくるとしよう。少し早いけれど、皆さんどうぞよいお年を。

(ひぐち たかし)

|

【バックナンバー】

最終回:オンラインソフトゆく年くる年(01/12/17)

第38回:プレゼンテーションが変えるオンラインソフト(01/12/10)

第37回:オンラインソフトユーザーの連帯感(01/12/03)

第36回:Windows XPがオンラインソフトに与える影響(01/11/26)

第35回:Windows XPとオンラインソフトの相性(01/11/19)

第34回:オンラインソフト社会の構造改革(後編)(01/11/12)

第33回:オンラインソフト社会の構造改革(中編)(01/11/05)

第32回:オンラインソフト社会の構造改革(前編)(01/10/29)

第31回:オートアップデートが拓く未来(後編)(01/10/22)

第30回:オートアップデートが拓く未来(前編)(01/10/15)

第29回:フリーソフト開発がもたらす利益(01/10/01)

第28回:コラボレーションのススメ(01/09/17)

第27回:ヘルプにヘルプ!(01/09/10)

第26回:ユーザーと作者の“温度差”(01/09/03)

第25回:オンラインソフトとサポートの限界(01/08/27)

第24回:ユーザーインターフェイス考(01/08/20)

第23回:オンラインソフト・フェノメナ(後編)(01/08/13)

第22回:オンラインソフト・フェノメナ(前編)(01/08/06)

第21回:初心者シンドローム(後編)(01/07/30)

第20回:初心者シンドローム(前編)(01/07/23)

第19回:バージョン表記のフシギ(01/07/16)

第18回:当たるもソフト当たらぬもソフト(01/07/09)

第17回:フリーソフト・ビジネス(後編)(01/07/02)

第16回:フリーソフト・ビジネス(前編)(01/06/25)

第15回:個人で楽しむ動画配信(後編)(01/06/18)

第14回:個人で楽しむ動画配信(前編)(01/06/11)

第13回:オンラインソフト浦島太郎(01/06/04)

第12回:ソフト選びにもコツがある!(後編)(01/04/09)

第11回:ソフト選びにもコツがある!(前編)(01/04/02)

第10回:オンラインソフト“のろけ話”(後編)(01/03/26)

第9回:オンラインソフト“のろけ話”(前編)(01/03/19)

第8回:オンラインソフト・ア・ラ・カルト (01/03/12)

第7回:オンラインソフトコミュニティ(01/03/05)

第6回:オンラインソフトの温故知新(後編)(01/02/26)

第5回:オンラインソフトの温故知新(前編)(01/02/19)

第4回:元祖“オンライン”ソフトの活躍(01/02/05)

第3回:オンラインソフト公開の甘いワナ(01/01/29)

第2回:DLLを見直そう(01/01/22)

第1回:3ペイン型ウィンドウはユーザーインターフェイスの終着駅?(01/01/15)

トップページへ
ひぐちたかしのオンラインソフトよもやま話 INDEX
Copyright (c) 2001 impress corporation All rights reserved.
編集部への連絡は mado-no-mori-info@impress.co.jp まで