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【第33回】

オンラインソフト社会の構造改革(中編)
〜見直すべき現実と責任〜

(01/11/05)

それでも避けられない

 前回書いたように、オンラインソフトをめぐる人々、すなわちユーザーの層と作者の層がここ数年で変わってきたことによって、変わらないままでいる人々との間にさまざまな歪みやトラブルが生じるようになってきたように思う。

 初心者ユーザーからヘルプを読めばわかるような質問をされて、作者が「ヘルプに書いてあるのでちゃんと読んでくれ」と答えるのは簡単だ。また自作のソフトとは直接関係がないような質問メールなら、無視して切り捨てるという作者もいるようだ。確かにそれも作者にとっては“困ったユーザー”に対する一つの解決策なのだろうと思う。しかし、それでも同様の初心者的な質問メールは届いてくるし、放っておいて減るわけではない。

 今や普通のテレビドラマで、職場ではなく家庭での風景としてパソコンが登場し、ごく普通の主婦が家事の合間にメールを使っていたりする。かつてのように、トレンディドラマで人気女優の演じるキャリアウーマンがメールソフトを使い、そのソフトがネットだけで話題になったりするような時代は、とうの昔に終わっているのだ。パソコンやWindowsを以前よりも多くの人々が日常の中で使うようになって、さらに多くの初心者ユーザーが生まれ続ける限り、作者にとってユーザーの“困った質問”が増えることは避けられないように思う。

現実を改めて認識しよう

 もちろん前回書いたように、ユーザーだけでなく、作者層も変わってきている。いろんな思惑でフリーソフトを作っている作者がいて、いろんな思惑でシェアウェアを作っている作者がいるのだ。明確な営利を目的としてフリーソフトを作っている作者もいるし、事実上フリーソフトに近い形態でシェアウェアを公開している作者もいる。昔ながらのフリーソフト、昔ながらのシェアウェアを作っている作者もいる。ユーザーからの問い合わせに対して懇切丁寧に応対してくれる作者もいるし、ぶっきらぼうな作者もいる。

 つまり現在のオンラインソフト社会は、もう昔と違って“そうなってしまっている”のだ。作者も、ユーザーも、そろそろ改めて現状を正しく認識する必要があるように思う。『あの頃はよかった』ではいけない。オンラインソフトを公開すれば、期待してない質問メールが一定の割合でほぼ必ず届くと思っておいたほうがいいし、オンラインソフトをダウンロードしていれば、いずれ首をひねりたくなるようなソフトや作者とほぼ間違いなく出会うことになると思っておいたほうがいい。問題は、その時に自分が冷静に対応できる覚悟があるか、ということではないだろうか。現実を受け入れた上で、じゃあどうしようか、どうすればお互いに不快な思いをしないですむのか。それを前向きに考えていくことが必要になってきていると思う。

オンラインソフトの利用は自己責任…でいいの?

 さて、作者とユーザーが変わってきたことでもう一つ、オンラインソフトについてそろそろ“常識”のほうが変わらなければいけないのではないか? ハッキリさせなければいけないのではないか? と思うことがある。それは、オンラインソフトを利用する上での責任問題だ。

 オンラインソフトの利用はユーザーの自己責任である、といった内容がREADMEやヘルプなどに書かれているのを目にしたことがある人は多いだろう。さまざまに取り決められた利用規約書の中に書かれていて「同意できる場合のみお使い下さい」などとなっていたり、ソフトによってはそもそもダウンロードする際にこうした規約への同意ボタンを押さなければダウンロード自体ができなくなっている場合もある。このようにオンラインソフトはあくまで自己責任で使う、というのが現在ではオンラインソフト社会の常識になっていると言っていいようだ。

 ぼくも長い間ずっとそれを文面通りに受け取ってきたし、オンラインソフトはそういうものなのだと思っていた。しかし、最近『本当にそれでいいのだろうか?』と考えることがある。例えば総菜屋の店頭に「この総菜は自己責任でお食べ下さい」なんて書いてあるのを見たことがある人はいるだろうか。もし食べて食中毒になってもそれは買ったアナタの責任です、なんていうのは、日本の社会では通用しないはずだ。こう書くとすぐ「市販商品とオンラインソフトは違う」という意見が出てきそうだが、じゃあなぜオンラインソフトだけが“優遇”されてしかるべきなのだろうか?

なぜオンラインソフトだけが特別なのか

 こういう話になると、オンラインソフトの歴史的な背景だとか、フリーソフトの精神とか、そういうことを言いだす人が必ずいる。「オンラインソフトは基本的に作者の厚意で作られているのだから。」確かにかつてはそれで通ったかもしれない。しかしその考え方は、今では“時代感覚がずれている”のではないかと思える。これまで書いてきたように、現在のオンラインソフト作者にはいろいろな人がいて、いろいろな思惑があってソフトを公開していて、ひと口にフリーソフト、シェアウェアと言ってもいろいろな形態がある。したがって、フリーソフトであれば使用上の責任は免れてしかるべきだ、というのは、あまりにもオンラインソフトの現状を理解していない乱暴な言い方としか思えない。

 また、純粋にボランティア精神で作られたようなフリーソフトとか、第16回のよもやま話で書いた“クラシック”なフリーソフトであれば責任を問われないかというと、今の時代はそれも何か違う気がしている。作者の制作動機によって、著作物の法的な扱いが変わってもいいものなのだろうか? また、無料なら何でもOKというわけではないのは、書くまでもないだろう。たとえ“みんなが幸せになるために”という大義名分があっても、どんな理由であれ著作権や人権などの侵害には注意しなければならないし、その他さまざまな法律は守らなければならない。これはオンラインソフトどうこう以前に、現代社会において必要な責任だ。

 ちなみにオンラインソフトに限らず、市販のパッケージソフトでも使用許諾書には同様の免責に関する記述がしばしば見られる。しかしパッケージソフトの場合は電話などによるしっかりしたサポート体制が用意されていることが多いし、開発元や販売元の住所、代表者名、連絡先電話番号が明記してあるなど、社会的責任についての意識はオンラインソフトよりも強いように感じる。

著作物が人々に広く利用されるという社会責任

 わかりやすい例をあげよう。例えばお祭りやイベントなどで、無料でふるまわれた料理に食中毒が発生した場合、開催者や調理者は責任を問われないのだろうか。100円のお菓子に異物が入っていて、知らずに食べた子どもが腹痛で入院しても、お菓子メーカーの責任は100円分でいいのだろうか。そんなことはないはずだ。つまりこうした責任は無料だからとか、金額の問題ではない。

 著作物を世に公開して多数の人々に利用してもらうということは、それだけで何らかの社会的な責任が発生するものだと思う。特に昔と違って今のように、パソコンやオンラインソフトについて必ずしも詳しい知識のない人々が利用する機会が多くなっていればなおさら、利用上の責任を一方的にユーザーに押しつける姿勢は、いかがなものかと思う。

 もちろんぼくは法律に詳しいわけではないので、賠償がどうこうと具体的にここで書けるわけではない。しかし、オンラインソフトを公開するということには最低限の社会的責任が発生するものであり、作者が法的に守られるのと同じように、ユーザーも法的に守られてしかるべきではないかと思ったりもするのだ。こうした議論はこれまで意外になされていないように思うし、まさにこれから必要になってくるのではないかと思っている。

まだ続くよもやま話

 今回のよもやま話のテーマではいろいろと書きたいことがたくさんあって、まだ書き足りない話が残っている。長くなって申し訳ないのだが、次回のよもやま話ではユーザー側に必要な意識改革や、オンラインソフトにおける責任の範囲、責任とサポートの違い、その考え方などについて話を進めていく予定だ。どうぞお楽しみに。

(ひぐち たかし)

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