【第10回】

エクスプローラ風画像ビューワー「ViX」の作者、K_OKADAさん

(01/08/21)

 オンラインソフトを使っていて、「なぜこのソフトが産み出されたのだろうか?」という思いをもったことはないだろうか。オンラインソフトには、作者のアイデアや思いやり、使命感などが詰まっている。普段何気なく使っているオンラインソフトの誕生ストーリーを知ると、ますます愛着がわくかもしれない。ということでこの連載では、ソフトを制作した作者自身に会って、ソフト誕生の内幕にスポットライトを当ててみたい。第9回目は、エクスプローラ風画像ビューワー「ViX」の作者、K_OKADAさんを訪問した。

小学校の図書館で読んだ雑誌広告でパソコンに目覚める

K_OKADAさん
K_OKADAさん
 K_OKADAさんは、愛知県刈谷市に住む、28才の地方公務員。名古屋大学法学部を卒業後、愛知県内の某役所に勤務している。K_OKADAさんのパソコン歴は長く、小学5年のときに学校の図書館で読んだ雑誌の広告で、パソコンが欲しくなったところからスタートした。パソコンが欲しくなった理由は、自分でゲームを制作できるからで、松下製の「JR-200」を買ってからK_OKADAさんのプログラマーとしての人生が始まった。

 そんなK_OKADAさんが実用的なソフトをつくるようになったのは、大学生になってからのこと。「JR-200」以降は、富士通製の「FM77AV」「FM77AV20EX」「FM-TOWNS」と経て、大学2年生のころに初めてオンラインソフトをリリースした。Windowsユーザーになったのが遅かったため、Windows版のソフトは「ViX」のみ。はたから見ると、もう完成したんじゃないかと思うのだが、K_OKADAさん自身は「まだ速度に不満、早くしなくちゃならないところはわかってる。」と、ひたすら速度改善に励んでいるという。じっくり考えるよりも、とりあえずソースコードを書いてみることも多いそうだ。

 プログラミングは平日夜か休日に行うことが多いとのこと。それ以外の趣味を聞いてみたところ、読書好きで、とくに現代史をよく読むらしい。また、テレビ番組でも、“現代史ドキュメント”や“プロジェクトX”などのドキュメンタリーものをよく見ているという。最近は3D CGにも興味があるそうで、K_OKADAさんの部屋の本棚には歴史の本と著作権の本、そしてShade関係の本が置いてあった。

エクスプローラ風画像ビューワー「ViX」

「ViX」v2.0
「ViX」v2.0
 K_OKADAさんが表示速度にこだわる「ViX」は、エクスプローラ風のユーザーインターフェイスを備えた画像ビューワーだ。Windows Meや2000では、エクスプローラのファイル一覧で画像の縮小表示ができるようになったが、以前はエクスプローラでファイルを選び、それを専用画像ビューワーで開くという手順が一般的だった。それが「ViX」を使うと、ウィンドウの左側でフォルダを選択するだけで、フォルダ内の画像ファイルのサムネイルをすべて表示できるようになった。まさに、デジカメでたくさん写真をとって、メモリカード経由でパソコンに保存する…そんな時代にぴったりのソフトといえるだろう。

 ソースコードはすでに十数万行に達しており、あまりにも巨大化したためユーザーから改良などの要望がきたときにスムーズに取り込めないのが難点だという。しかし、建設的な機能の提案についてはできるだけ対応していきたいそうで、これまででは動画の再生を実現したときが大変だったとのこと。そのときのように、数千行を破棄して作り直すという大手術を2~3回繰り返してきたという。できるだけ柔軟性をもたせたいとのことだが、拡張すればするほど要望が出てくるというところもあるそうで、なかなか悩みは尽きないようだ。そうして、「ViX」は画像ファイラーとしての機能だけではなくなり、雑誌などで紹介されるときに限られた文字数では機能のすべてを紹介しきれないソフトになっているのも心配のひとつだという。

“ひとりごと”コラムとライバルソフト紹介

プログラミング、著作権、Shadeの本が並ぶ
プログラミング、著作権、
Shadeの本が並ぶ
 ところで、今回K_OKADAさんを取材したのは2つの理由がある。ひとつはソフトに興味があったことだが、もうひとつはK_OKADAさんのホームページについていくつか気になるところがあったからだ。ご存じの方もいると思うが、K_OKADAさんのホームページには“ひとりごと”というコラムがある。3年ほど前からK_OKADAさんが書き始めたものだが、文字どおりオンラインソフトの作者の気持ちを赤裸々につづられているのでぜひ一読してほしい。作者にもユーザーにも納得できる部分が多いし、ときには目からウロコが落ちることもあると思う。

 その中には、開発のきっかけや“クローズソース”と題してオープンソースについての意見、クリエーターとして避けることのできない著作権や特許についても触れられている。さまざまなテーマを、ときにはまじめに、ときには面白おかしく書いてあり、そしてときどき毒舌になっているところもある。そういえば、インタビューでのテンポのよい語り口調といい、ちょっと辛口な部分といい、どことなくビートたけしさんに似ている気がした。実はこのコラムのファンは私だけではない。この連載の第2回で訪ねた「解凍レンジ」の白川さんも、共感し励みになったと言っていた。

 そしてホームページでもうひとつ。“ライバルソフトたち”という名前で、さまざまな画像ビューワーを紹介していることが気になった。普通自分のソフトを売り込むために、他のソフトには目をそむけそうな気もするのだが、文字どおり同ジャンルのソフト名がずらりと並んでいる。コメントやリンクはないものの、たいした太っ腹だと思う。やはり、画像ビューワーに関してはつねにチェックしているそうで、その中でも気になるソフトとして、操作性の近い「Linar」とサムネイル展開速度に優れた「ACDSee32」、そして発展し続ける新鋭「01NExplorer」という3本の名前が挙がった。

「ViX」は自分のためのソフト

2台で6つのテスト環境を用意
2台で6つのテスト環境を用意
 そんなK_OKADAさんだが、「ViX」は自分のためのソフトだと断言する。自分が面倒くさいことを楽にしたい、そんな省力化のために作っているらしい。コンパイラーや動作確認用のパソコンなどソフト開発の費用については、趣味にお金をかけるのと一緒で、他の人が車を買ってお金をかけるのと変わらないとのこと。また、自分の趣味で作っているから苦にならないし、ユーザーの厳しい言葉も気にならないという。「誹謗中傷は無視すればよい。ただ、自分と同じように使ってくれたユーザーの理にかなった意見が痛い」とのことだ。

 そうは言いつつも、やっぱり自分が愛情を注いだソフトが少しでも広まるようにという思いはあったという。そして、ホームページが合計100万アクセスを超えたときに、やっと肩の荷が下りた気がしたそうだ。なお、Windows Meや2000にはエクスプローラの縮小表示というサムネイル表示機能がはじめからついているが、K_OKADAさんに言わせると「なんでエクスプローラはあんなにサムネイルの表示が遅いのか」と驚いていた。読者のみなさんにコメントを、とお願いしたら、「一度使ってみてください。いらなかったら消してください」という答えが返ってきた。

 「ViX」への思いは、使ってくれる人を後悔させないことへのこだわりでもある。新バージョンを公開する前に、2台のパソコンを使って必ずWindows 95/98/Me/NT 4.0/2000でテストを行っているという。部屋には、Windows Meと2000のデュアルブートにしたメインマシンと、システムコマンダーで95/98/NT 4.0/2000と4種類起動できるようにしたサブマシン、そしてなつかしのFM-TOWNSが並んでいた。ちなみに、いまでも毎年TOWNSユーザーの忘年会に出席しているという。インタビューの最後に恒例の誰かに協力してもらうとしたら、どんな才能をもったひとがいいか尋ねたら、アイコンデザイナーに協力してもらって、多色アイコンを組み込みたいとのことだった。そして今、ホームページを見てみると「9月4日に重大発表があります。」とある。こだわり派のK_OKADAさんがあえて予告しているくらいだから、いったいどんなことが待っているのか楽しみだ。

ご存じ、名古屋城
ご存じ、名古屋城

□K_OKADA's WebPage
http://homepage1.nifty.com/k_okada/
□窓の杜 - ViX
http://www.forest.impress.co.jp/library/vix.html

(小山 文彦)

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