【第21回】

初心者シンドローム(後編)
~オンラインソフト初心者から卒業する~

(01/07/30)

 前回のよもやま話では、“オンラインソフト初心者”かどうかのチェック項目をあげながら、オンラインソフトに触れる上での基礎知識や共通するインストール手順などを簡単にまとめてみた。今回はもう少し先に進んで、初心者が陥りやすいトラブルの傾向や、自分が初心者ではない場合でも身近にいるオンラインソフト初心者に対して上手に教えるコツなどについて、あれこれ考えてみようと思う。

初心者ゆえの思い込みに注意

 オンラインソフトはインターネットなどのネットワークを介して配布されるものだから、ネチケット、つまりネットワーク上のエチケットに気を配る必要がある。特に作者などから教えてもらう立場にある場合なら、なおさらだ。しかし初心者ゆえに、何か不具合に直面するとパニックになったり頭に血がのぼってしまい、ネチケットを忘れた行動を取ってしまいがちではないだろうか。

 例えばダウンロードしたフリーソフトを使っていて、保存したはずのデータがなぜか消えていたような場合、真っ先に何を疑うべきだろうか。ソフトのバグか? それともウィルスのせい? ここですぐに誰かに助けを求めるようでは、初心者と言われても仕方がない。ましてや作者宛にケンカ口調でメールを書くようなことは、手順として最悪と言っていい。

まずは自分を疑おう

 まずは深呼吸して冷静に、自分を疑ってみよう。ファイルをどこに保存したのか、本当に保存できていたのか、そこから疑うのが最初だ。スタートメニューから[検索]-[ファイルやフォルダ]を選んで、保存時につけたファイル名でハードディスク全体を検索してみれば、マイドキュメントフォルダやCドライブのルート、Windowsフォルダ、ソフトをインストールしたフォルダなどに保存されていたりするものだ。また、保存時に他のファイルに上書きしてしまったり、「上書きしますか?」の問い合わせに手がすべって[いいえ]を選んでいたといった、自分の操作ミスが原因の場合もある。

 自分が原因ではないことが明らかになれば、次に疑うのが自分の環境だ。つまり「スキャンディスク」でハードディスクの検査をしたり、「システムファイルチェッカー」でシステムファイルを検査したりといったことだ。ウィルスチェックも念のため行っておこう。それでも問題が見つからなければ、そこで初めてソフト自身の不具合を疑うことになる。そしてヘルプファイルや作者のホームページを見て、“FAQ”(よくある質問と答え)や“既知の不具合”として情報が書かれていないかどうかをチェックしてみる。

 それでもわからなければ、ここでようやく周囲のパソコンに詳しい人に相談するのが望ましい。そして周囲にそういう人がいなかったり、聞いてもわからなかった場合に、最終手段としてソフトのサポート窓口、つまり作者へのメールや掲示板への書き込みを行うことになる。どこでそうした質問を受け付けているかは、ソフトの説明書やヘルプファイルに書かれているので、よく読もう。しかしその前に、同じ問題が再現するかどうかを自分で確認しておくことも必要だ。

最も深刻な問題は?

 メールを書いたり掲示板に書きこむにあたっては、読む相手は同じ人間であるということを十分に気を付けて書くようにしたい。「こんにちは」とか「はじめまして」の挨拶ひとつ冒頭につけるだけでも、メールの印象は随分違ってくるものだ。いきなり不具合に対する文句を書くのではなく、まずはダウンロードして使わせてもらったというお礼の一言や、そのソフトについて自分が感じた長所を書けば、読むほうも嬉しいもので真摯(しんし)に回答に応じてくれることが多い。

 そしてオンラインソフト、とりわけフリーソフトの多くは、作者が厚意で公開してくれているものだということを忘れないようにすべきだろう。もちろん、まっとうな不具合指摘やソフト批評までが禁じられるものではないが、少なくともどこかのお店で買った商品の欠陥にクレームを付けるような感覚で、フリーソフト作者にクレームをつけるのはお門違いだ。作者がソフトの不具合を修正するのは作者の厚意によるものであって、決して“当然の義務”ではない。そのことを忘れて作者と接すれば、作者に無視されたりケンカ腰のトラブルを起こしてしまうことになる。

 ぼくが周囲やネット上を見る限り、オンラインソフト初心者にとって最も深刻な問題は、ソフトの使い方の間違いなどよりもそうした“二次的”な人間同士のコミュニケーション上で発生するトラブルではないかと思う。初心者だから何を言っても許されるということはまったくないし、匿名で書ける掲示板であっても、ソフトに対する文句を並べたてたりあげつらうようでは前向きな問題解決は望めない。オンラインソフト作者も人の子、非難されて腹を立てる人もいれば、開発意欲を失う人もいる。作者とユーザーが反発し合うのではなく、ソフトを良くするためにユーザーと作者が協力するという姿勢が、オンラインソフトを真に育てていくのだ。そのことを十分に理解できるようになれば、オンラインソフト初心者からの卒業はたやすい。

身近な初心者を卒業させよう

 一方、自分はもうオンラインソフト初心者ではないと自負できる人は、身近にいる初心者を早く卒業させてあげられるようになろう。教える立場になれば自分の“初心者的”な問題点を客観的に見ることができていいのだが、教えるというのは意外に難しいというのも事実だ。

 以前、ぼくは知人のパソコン初心者にとあるソフトの使い方を教えたことがある。それこそマウスクリックの仕方から始め、3日ほどかけて手取り足取り懇切丁寧に教えたつもりだったのだが、1カ月後にその知人に最近の状況を聞いてみたところ、自分で使うのは諦めて会社の部下にやらせていると言うのだ。これにはさすがにガッカリした。しかし、原因はおそらくぼくのほうにある。ぼくが手取り足取り教えたことが、かえって悪かったのではないかと思えるのだ。いくらちゃんと教えたつもりでも、本人の身に付いていなければちっとも教えたことにはならない。ただの説明の押しつけだ。

 初心者から何かわからないことを聞かれたときに、あっさり答えていては単なる“パソコン便利屋”か“生き字引き”になってしまう。しかし面倒がって教えないのもほめられたものではない。何でも教えすぎず、ヒントだけにして本人に考えてもらうとか、調べる方法だけを教えて本人が調べるようにするとか、そうした工夫が必要だろう。いつまでたっても周囲の初心者から頼られるのは、実は決していいことではないと思うのだが、いかがだろうか。

誰もが通る道だから

 オンラインソフトユーザーに限らず、初心者という状態は誰もが通る道なのだから、それを必要以上に恥じて萎縮する必要はない。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」という言葉もあるように、オンラインソフトについてわからないことを教えてもらうのは、わからないまま放置するよりはいい。けれども、どちらにしろ“恥ずかしい”、初心者であるという意識をもって、早く初心者から卒業できるような努力をすることが大切だろう。また、これまで何度も書いてきたように、オンラインソフトの文化がユーザーと作者とのコミュニケーションによって支えられているということを踏まえて、教えられる側も教える側も謙虚な姿勢でいれば、オンラインソフト初心者をめぐるトラブルはグッと減るのではないだろうか。

 といったところで今回の「よもやま話」は終わることにしよう。

(ひぐち たかし)

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