【第16回】

フリーソフト・ビジネス(前編)
~多様化した“フリー”ソフト~

(01/06/25)

フリーソフトが突然シェアウェアに!

 今まで愛用していたフリーソフトが突然作者の意向でシェアウェアに変わったら、読者の皆さんはどう感じるだろうか。まぁ率直な話、『嬉しい』とか『喜んでシェアウェア登録するよ』といった人は少数派じゃないかと思う。多くの人は残念に思うだろうし、『しょうがないな』と(やや後ろ向きな気持ちで)諦めてお金を払うか、使うのをやめて代替えになる他のフリーソフトを探すか、中にはシェアウェア化した作者に腹を立てて文句を言う人もいるかもしれない。実際、そういったシェアウェア化によるソフト作者とユーザーとのトラブルを耳にすることもある。

 そこで今回のよもやま話では、ビジネス利用を意識したフリーソフトや、“フリーソフト”と“シェアウェア”のはざまで揺れるユーザーや作者についてのあれこれについて、書いてみようかと思う。

こんなトラブルも

 最近、フリーソフトとして配布されていたあるソフトの作者が突然シェアウェア化を宣言し、ネット上でちょっとしたトラブルが起きているのを目にした。予告も前ぶれもない突然のシェアウェア宣言だったこともあってか、一部のユーザーから掲示板などで猛反発を受けたあげく、作者がそのソフトの公開自体をとりやめてしまったのだ。

 こうしたトラブルはオンラインソフトに限らないことだろう。例えば今まで無料で自由に使えていた市民図書館や公園が急に入場料500円になれば、誰だって驚きとまどう。とはいえシェアウェア化で起きた今回の騒動は、両者の言い分や事情はともかく、結果的にはユーザーも作者も両方が何も得られない状況になったわけだから、これはとても不幸なことに思える。作者とユーザーの対立という構図ではなく、お互いの歩み寄りという形で発展的に解決できなかったのだろうかと思う。しかし、このトラブルの起こった原因をぼくなりに考えてみると、いまのオンラインソフトやフリーソフトが抱える問題が見えてきたように思えるのだ。

フリーソフトにもいろいろある

 さて、少し話を戻そう。最初はフリーソフトだったものが、バージョンアップによってシェアウェアに変わるというのは、オンラインソフトの世界では決して珍しい話ではない。そして、それが必ずしもユーザーに受け入れられないものではないということも確かだ。

 オンラインソフトがフリーで公開される場合、そこには作者のさまざまな意図がある。「自分の作ったソフトを多くの人に使ってもらえるのがうれしいから」といったボランティア精神に基づいて公開されているフリーソフトは、昔からあるいわばフリーソフトの“クラシック”と言っていいだろう。最近のWindows用ソフトでは見かけることが少なくなったが、いわゆるGNUに属するフリーソフトなどは、わかりやすく言えば便利なものをみんなで共有してみんなで幸せになろうという精神に基づいて公開されていて、ぼくも初めてGNUソフトを知ったときは感動したものだった。

 一方、最近よくあるフリーソフトには、β版の間はフリーだがいずれ正式版でシェアウェア化するとうたっているものとか、広告を表示する機能をつけてスポンサーから収入を得ているものとか、実にさまざまな形態のものが存在している。中には、無料で使い続けるためには別の有料サービスで金銭を支払う必要があるという、販促を目的とした“フリーソフト”もある。例えば銀行や証券会社などが、口座を開設して取引を行ってくれる顧客向けに提供しているフリーソフトなどはそれにあたるだろう。これらはぶっちゃけた話、“客寄せ”が目的でフリーにしているわけで、作者は何らかの形で金銭的収入を得ることになるのが“クラシック”のフリーソフトとは大きく異なる点だ。

クラシックの仮面

 こうしたいわば“ビジネス志向”なフリーソフトの増加を目の当たりにすると、ぼくのような“クラシック育ち”の古い人間は『時代が変わったなぁ』と感じる。もちろん“ビジネス志向”なフリーソフトが悪いと言ってるわけでは決してない。どちらに属するフリーソフトであっても、自分が便利だと思えば使えばいいし、自分には合わないと思えば使わなければいいだけの話だ。しかし、最初は“クラシック”のほうだと思ってありがたく使っていたフリーソフトが、実は“クラシック”の仮面をかぶった“ビジネス志向”のフリーソフトだったとなれば、ユーザーはなんだか騙されたような気分になるかもしれない。

 たぶん冒頭にあげた、シェアウェア化に関して起こったトラブルも、作者が最初から将来のシェアウェア化を前提とした“ビジネス志向”のソフトであることを明言していれば、ユーザーがそんなに反発することもなかったんじゃないだろうか。また、最初は“クラシック”として生まれたフリーソフトが作者の何らかの都合や思惑で急きょ“ビジネス志向”に変更されるにしても、それをユーザーが納得できるような形で変更する手段はあるはずだろう。実際、フリーソフトとして世にデビューし、シェアウェア化を経てもユーザーの強い支持を得てヒットしているソフトは少なくないのだ。

 次回の「よもやま話」では、そうしたシェアウェア化の成功例をいくつかあげながら、もう少しフリーソフトとシェアウェアのはざまにおけるユーザーと作者の関係などについて書いてみようと思う。

(ひぐち たかし)

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