【第7回】
格闘ゲーム風タイピング練習ソフト「Ozawa-Ken」の作者、比護 賢之さん
(01/04/24)
オンラインソフトを使っていて、「なぜこのソフトが産み出されたのだろうか?」という思いをもったことはないだろうか。オンラインソフトには、作者のアイデアや思いやり、使命感などが詰まっている。普段何気なく使っているオンラインソフトの誕生ストーリーを知ると、ますます愛着がわくかもしれない。ということでこの連載では、ソフトを制作した作者自身に会って、ソフト誕生の内幕にスポットライトを当ててみたい。第7回目は、格闘ゲーム風タイピング練習ソフト「Ozawa-Ken」の作者、比護 賢之さんを訪問した。
井の頭公園でボートに挑戦
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| 比護 賢之さん |
比護さんは東京都武蔵野市に住む、社会人3年目の会社員。杉並区の高円寺にあるソフトウェア会社に勤務し、最寄り駅が吉祥寺駅からJR中央線で1本という乗り継ぎに困らない場所。そこで今回のインタビューは、比護さんの自宅からほど近い“井の頭公園”で桜を見つつ行うことになった。吉祥寺駅で落ち合い、さっそく駅から公園までの道のりを人混みをかき分けながら移動した。公園にたどりつくと満開の桜とそれを映す大きな池が目に付いたので、勢いに任せてボート乗り込んだ。ボートに乗ったのは生まれて初めてという比護さん。最初はとまどいながらもオールを持つと静かにこぎ始めた。「舟はムズイなー」とか「ボートは油断ならない」などと言いながら、確かめるように左右のオールを動かしていた。どうやらボートの後ろへ向かって進んでいく仕組みが気に入っているようだった。ひょっとしたら、新しいソフトのアイデアが浮かんだのかもしれない。
格闘ゲーム風タイピング練習ソフト「Ozawa-Ken」
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| Ozawa-Ken |
それでは、まだ「Ozawa-Ken」を一度もプレイしたことのない人のために、どんなソフトなのか説明しよう。見た目はゲームセンターの対戦格闘ゲームに似ており、レベルの異なる5人の敵と対戦するというタイピング練習ソフト。画面に表示された単語をローマ字で入力するたびに、敵キャラクターへパンチやキックで攻撃する。ただし、ミスタイプしたり、しばらくタイプせずにいると敵の攻撃を受けてしまう。制限時間内に敵キャラクターのエネルギーを奪いきれば勝ち。しかし、勝つことだけでなく、プレイ終了後に表示されるタイピングのスピードや正確さのレベルも重要だ。
「Ozawa-Ken」は、ゲーム自体が優れていることはもちろん、主人公と敵キャラクターが実写取り込み画像のアニメーションで動いているのがおもしろい。実は大学の卒業研究として制作されたソフトで、主人公は比護さん自身、敵キャラクターは研究室の友人がふんしている。ソフト名の「Ozawa-Ken」も、比護さんが所属していた東京工科大学の小澤研究室からとったものだ。キャラクターのアニメーションが細かく、写真を撮るだけでも大変だったらしく、研究室の友人はしぶしぶ協力してくれたという感じだったとのこと。その代わり「Ozawa-Ken」は大学内で撮影した写真がふんだんに収録されており、関係者にはとても思い出深いソフトとなっている。
また「Ozawa-Ken」のほかにも、和風のパズルゲーム「枡田」や、ホームページ上で遊べるJavaゲーム、PalmOS用のソフトを制作している。どれもユニークなものばかりで、比護さんがいかにアイデアマンぶりが発揮された作品ばかりなので、ぜひ試してみてほしい。
プラットフォームを選ばない勉強家
「Ozawa-Ken」が広くユーザーに受け入れられたことについて尋ねてみると、思いのほか有名になってびっくりしているそうだ。比護さん自身は「やったらおもしろいだろうな」、「自分がやっておもしろいな」という基準でソフトを作っているだけらしい。また、さまざまなプラットフォームに向けてソフトを制作していることについては、勉強のようなものと笑う。今はいろいろなものを学びつつ、自分のアイデアを書きためているところだそうだ。独立については、独立が自分にいい結果を生むならするが、かたくなに独立を目指したいわけではないとのこと。とにかく、ソフト制作のためにもっともいい開発状況を見つけたいと、あくまで自然体を崩さない。
卒業研究にもかかわらず、「Ozawa-Ken」のREADMEファイルの中には寄付金募集と書いてある。すると何人かのユーザーはソフトに感動して実際にお金を振り込んできたそうだ。そのときの比護さんの感想は「日本もまだまだ捨てたものじゃないな」。手の込んだソフトを仕上げたことについて、自分は何かがすごいとかではなく、ただ完成するまでやり続けているだけ。他のオンラインソフトについて尋ねると、オンラインソフトはあまり使っていないが、グラフィックや音楽関係のソフトがリリースされると一度は試してみるという。ちなみに「Ozawa-Ken」は、現在比護さんのお母さんがタイピング練習用に使っているらしい。
花見でいきなり「Ozawa-Ken」大会
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| 「Ozawa-Ken」大会出場者 |
ボートから降りて桜の下に移動した。青いビニールシートがたくさん広げられていたが、あまり人のいないところがあったので、シートを敷いたと思われる団体にお願いしてシートの片隅に座り込んだ。そのうちに隣の団体の方からビールの差し入れがあり、タイピング練習ソフトのインタビューをしていることを話した。残念ながら、そこにいるメンバーは「Ozawa-Ken」のことを知らないようだったが、興味をもってくれたようだったので、ちょうど筆者が取材用に持ってきていたノートパソコンをシートの上に広げて、「Ozawa-Ken」をプレイしてもらうことになった。彼らは外資系企業に勤める会社員のグループだそうで、日本人だけでなくアメリカ人や中国人もいる。日々パソコンに向かって仕事をしているから、タッチタイピングにはかなり自信があるという。
作者の比護さんはさすがに何度もテストプレイを重ねたためか、最初からいきなりAランクの高得点。続いて筆者が挑戦したが、残念ながらBランク。毎日キーボードをたたき続けているはずなのに、けっこうミスタイプが多いようだ。そして、驚くべきは初めてプレイしたはずの花見の方々。実に盛り上がったので、大会結果を掲載したい。花見の団体の方では、タケシさん(日本人)が最高得点をたたき出し、それ以外の日本語ネイティブではない方も、高速にローマ字入力をしていたのは比護さんも筆者もびっくり。また、同じくジェニファーさん(中国人)からは、「し」を「shi」ではなく「si」と入力することに苦情が出たくらいだった。ともかく、みんなでハマることができたので、「Ozawa-Ken」のおもしろさは万国共通といっても問題なし?
| 順位 | 出場者 | レベル | ポイント |
| 1. | タケシさん | A++ | 1116.74 |
| 2. | 比護さん | A+ | 1047.12 |
| 3. | 筆者 | B++ | 913.78 |
| 4. | ルークさん | C++++ | 769.31 |
| 5. | マッシュさん | F | 失敗 |
| 6. | ジェニファーさん | F | 失敗 |
レベル1と3の敵キャラと焼き肉
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| リターンマッチ? |
日が傾き始めた頃、井の頭公園でのインタビューを終えた。比護さんが友達と約束があるということだったのが、聞いてみると「Ozawa-Ken」にレベル1と3の敵キャラクターとして登場した友人に会うという。このチャンスは逃してはならないと思い、一緒に連れていってほしいと比護さんに懇願すると、しぶしぶOKしてくれた。というわけで今度はレベル1と3の敵キャラクターにふんした比護さんの友人と待ち合わせ、吉祥寺のとある焼き肉屋さんに入った。レベル1の友人が平田さんで、レベル3が原田さん。比護さんが細身であるのに比べると、二人はまさに敵キャラにふさわしい頑丈そうな肉体。焼き肉を食べる姿も勇ましく、大学を卒業してからもさらにパワーアップしていたようだ。
二人に比護さんのことを聞いてみると、仲のいい友達であると同時に、身近な天才だと認めていた。クリエイティブなセンスのかたまりとも。友人から普段聞かないほめ言葉を聞いて、比護さんはちょっと照れくさそうだった。ボートに乗ったり、タイピング大会に巻き込んだり、挙げ句の果てには友人との焼き肉にも乱入させてもらったが、すべて笑って受け入れてくれた比護さんに感謝したい。その人柄のよさを、次に制作するソフトにもぜひ活かしてほしい。
もうひとつのソフト「オザイオン」
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イーオン・デジタル・ワークス のみなさん |
ところで、「Ozawa-Ken」には「オザイオン」という姉妹ソフトと呼べるものがある。「オザイオン」は「Ozawa-Ken」に英単語学習をミックスしたソフトで、たとえば日本語で「りんご」と出題されると、プレイヤーは「apple」と入力しなくてはならない。最初はアルファベットを見ながらタイピングできるが、難易度が高くなると「a*pl*」のように単語の一部が隠されるため、実際に単語を覚えていないとクリアできない。内容は真剣だがゲーム性は「Ozawa-Ken」と変わらず、まさに楽しみながら英単語を学習できるようになっている。
その「オザイオン」を配布しているのがイーオン・デジタル・ワークスという、英会話教室で有名なイーオンの関連会社。「オザイオン」の発案者であるイーオン・デジタル・ワークスの脇さんにオザイオンの誕生秘話と比護さんについての印象を語ってもらった。脇さんは「Ozawa-Ken」をリリース当初から知っており、同社が主催する英語学習ホームページに掲載している単語道場の問題を、ネットワークにつながずローカルで練習できないかと思ったときに、「Ozawa-Ken」との組み合わせを思いついたという。さっそく比護さんにメールで連絡すると、すぐに制作に力を貸してくれることになったそうだ。ちなみに脇さんが比護さんを初めて見たときの印象は、エンジニアらしい気さくな方だなぁというものだった。
その後もスムーズに制作が進み、3カ月程度で「オザイオン」がリリースされる。このあたりの機動力は、まさにオンラインソフトならではといえるだろう。ホームページでの人気も上々で、ユーザーから「英語の発音を入れてほしい」などの要望が出るほど、同社のホームページを支える人気コンテンツとなっている。オザイオンは、単語道場と同様に0から99まで100のレベルがあり、各レベルに100語ずつ問題が用意されている。ユーザーは自分の単語レベルが上がるたびに、問題の入ったレッスンデータをダウンロードする仕組みだ。
このようにソフトが認められて、オンラインソフトが別の形でも利用されるのはかなり珍しい例だと思われる。しかし、「Ozawa-Ken」のタイピング練習の要素が、単語学習という目的と組み合わさって「オザイオン」が生まれたように、ほかのソフトが備えるある機能が何らかのサービスと結びついて、新しいソフトが生まれることも十分に考えられる。オンラインソフトに新しい可能性を見いだした脇さんと、新しい可能性を受け入れられる強烈なアイデアを打ち出した比護さんに筆者は驚かされた。オザイオンに限らず、今後もこういったオンラインソフトを再活用するアイデアが出てくることを期待したい。
□higopage
http://station.vallab.com/~higo/
□窓の杜 - Ozawa-Ken
http://www.forest.impress.co.jp/library/ozawaken.html
□窓の杜 - オザイオン
http://www.forest.impress.co.jp/library/ozaeon.html
(小山 文彦)