【第3回】

オンラインソフト公開の甘いワナ
〜ソフト開発の盲点〜

(01/01/29)

世にもビミョーな問題点

 仕事柄ぼくは毎日たくさんのオンラインソフトを使ってみているのだけれど、たまに『おいおい、それはちょっとまずいんじゃないの?』と思ったり『これはワザとやってるのか?』と首をひねってしまうソフトに出くわすことがある。決して違法性が高いとか、過激なアダルト系といった類ではなく、そのソフトを公開しているからといって逮捕されるようなシロモノではない。しかし、倫理上の問題やユーザー保護の視点などさまざまな理由から、ちょっとスポットライトを当てにくいソフト、というものが存在するのだ。

 もちろん作者がそのような問題点を重々承知した上であえて公開しているなら、なにも余計な口出しをする必要はないだろう。しかし明らかな違法ではないゆえに作者が気付いていない可能性もあり、せっかくの優れたアイデアやソフト開発の技術が市井に埋もれてしまうことにもなりかねない。たまに思いあまって老婆心ながら作者にその旨をメールすると、慌てて改善してくれるといったこともままある。そこで今回のよもやま話では、こういった明らかな違法ではないけれど微妙な問題となりやすい、オンラインソフト開発と公開におけるいわば“盲点”について書いてみようと思う。

Web広告削除系ソフトの自己矛盾

 最近最も目につくのは、ぼくが「Web広告削除系」と呼んでいる一連のソフト群だ。つまり、バナー広告などによる広告収入で運営されている各種情報サイトからHTMLを定期的にダウンロードし、広告部分を取り除いて情報データだけを表示したり、独自のウィンドウ構成でデータ表示するようなソフトのこと。“人のふんどしで相撲を取る”というと聞こえは悪いが、まさによそのサイトが苦労して発信している情報を、美味しいとこ取りしてしまうソフトと言っていいだろう。

 Web広告削除系ソフトには、大きく分けて2つある。1つは広告を削除すること自体を主目的にしたもので、たとえばWebブラウザーと連動してポップアップする広告ウィンドウをポップアップしないようにしたり、自動で閉じるようなソフトが含まれる。また、WebページのHTMLを解析してご丁寧にも広告バナーの部分だけを削除し、広告以外の内容は元のまま表示するといった一種のフィルターソフトもある。もう1つは意図していなくても結果的に広告を削除してしまうもので、たとえば株価情報サイトの株価データだけを取りだしてチャート解析したりCSV化するソフトや、キーワード検索サービスの検索結果をユーザーが見やすい形で一覧表にするソフトもこれに属する。

 こういったWeb広告削除の問題は、普及すれば結果的に自分で自分の首を絞めるという自己矛盾にある。つまり広告運営で成り立っている(もしくはそれを目論んでいる)サイトに対して、Web広告を削除するソフトが広く普及すれば、広告バナーのクリック率が下がり、スポンサーがつかなくなって広告収入を見込めなくなり、いずれサイト閉鎖にもなりかねない。となるとWeb広告削除系ソフトも存在できなくなるわけだ。もっと早い段階で、Webサイト側が自衛のためにWeb広告を削除できないような対策を講じる可能性もある。いずれにしろ、Web広告削除系ソフトは非常に少数派だからこそ機能していると言えるのであって、いわば広く普及してはいけないソフトなのだ。広告収入が主要な資金源になっている雑誌や新聞などのメディアでもその立場上、記事として取り上げにくいのは言うまでもない。

著作権・特許・プライバシー侵害などに対する判断の甘さ

 音楽や画像など他人の著作物を勝手に使用する著作権侵害の問題は、これまでもさまざまなメディアで口をすっぱくして言われてきたので、今さらここでは繰り返さない。しかし、著作権侵害かどうかすぐにはわからないような曖昧なところで『まぁ大丈夫だろう』といった甘い判断や、『もし警告が来たら引っ込めます』と書かれた確信犯的な甘さが、一部のオンラインソフトにしばしば見られることをここでは問題にしたい。後者は論外として、自分で判断できないときはオリジナルの著作権者に連絡して許可を得ることが前提だし、弁護士や法律に詳しい人が身近にいれば聞いてみたり、無料の市民相談会やWebサービスなどを利用するのもいいだろう。疑わしければ流用しない、という姿勢が大切だ。他人が作成したものにはすべて著作権が存在するのだ。

 一方、オリジナルの著作権者から二次使用の許可を受けている場合は、その旨をヘルプやREADMEなどの説明書にきちんと書いておく必要がある。オンラインソフトに関連した多くのメディアでは、時間的な制約もあり、著作権問題が怪しいときやすぐに確認がとれないときは、最初から記事に取り上げないという傾向が少なからずある。窓の杜の場合でも、作者に連絡してすぐに確認が取れたものは過去にも記事にしているが、作者からの返事が来なかったり遅れたものは、記事にしなかったり後日にまわしている。せっかく著作権者から許可を受けているのであれば、それをハッキリ明記しておかないと、世間に広く紹介されるチャンスを逃すことになるのだ。

 また、最近はプライバシー侵害につながる可能性の高いソフトが目立って登場してきていることにも触れておきたい。ネットワーク環境で他人のデスクトップ画面をこっそりのぞけるソフトや、のぞいた上でデスクトップにいたずら描きをするといった類のソフトだ。のぞかれる相手の承諾を得た上で、たとえば学校の講習などで使うなら問題はないし、その旨をヘルプに明記してあれば何ら構わないのだが、「相手にわからないようにこっそりインストールしておいて下さい」とか「普段はタスクトレイアイコンも表示されないので相手に気付かれません」といったうたい文句が書かれている場合は、明らかに“のぞき”というプライバシー侵害行為をソフト作者がユーザーに推奨していることになる。これでは良識あるメディアなら、とてもお勧めソフトとして記事にとりあげるわけにはいかないだろう。

冗談で済まないジョークソフト

 先日の成人式で、新成人が大暴れして逮捕されたり、ヤジをとばした新成人たちが後日知事に謝ったというニュースは、ご存じの人も多いだろう。いずれも本人は口をそろえて「軽い気持ちで目立とうと思ってやったが、こんな騒ぎになるとは思わなかった」と言っている。オンラインソフトの世界にも、おそらく作者は軽い気持ちで作ったのだろうが“冗談では済まされないジョークソフト”というものが多数存在している。

 コンピューターウィルスが深刻な社会問題になっている時期にウィルスそっくりのメッセージを表示するジョークソフトが公開されたり、昨年省庁ホームページの不正書き換えが問題になったときにはコンピューターにハッキングするバーチャルシミュレーションソフトの登場、さらに西鉄バスジャック事件の直後には、バスを乗っ取って乗客を殺すのが目的のゲームが出まわるなどなど…。倫理上の問題が大きいこういったソフトは、世間に注目されればいいという愉快犯・確信犯的なものが多く、そこまでひどくなくてもソフトのテーマによっては誰かの心を深く傷つける場合がある。

 一般のメディアがこういったソフトをオススメとして記事に収録することはまずないが、作者は“わが子かわいさ”で問題の大きさに気付いていないこともあるようだ。そのソフトが仮に世間に注目されたとき、自分が作者だと名乗り出ることが少しでもためらわれるようなら、公開しないでほしいとぼくは言いたい。これはソフト公開時の注意点というより、ぼくからソフト開発にたずさわる皆さんへの“お願い”と思ってもらっても構わない。

最低限の動作確認がとれない

 うたい文句はスゴイのに起動すらしないソフト、というのが最近は増えているように思う。プログラミング環境が多様化して以前に比べるとWindowsプログラミングが容易になっていることもあるが、ぼくの持っている複数のパソコン環境すべてでまったく起動しなかったり、すぐに異常終了するソフトに出くわすことが最近多くなっている。その原因にはランタイムやDLLのチェックミスが多いようだが、意外と多いのがWindowsのロングファイルネームとマルチユーザーへの対応不足。ソフト自身がロングファイルネームに対応していてもインストーラーが対応していなかったり、「My Document」などスペースのあるフォルダからインストールを始めると正しく認識しないものがしばしばある。また、Windowsのログインユーザーごとに異なるスタートメニューやデスクトップ環境を使う設定にしていると、まともに動作しないソフトもよく見かける。

 オンラインソフトを世間に公開するからには、最低限でも2台以上のパソコン環境できちんと動くことを確認してから公開してもらいたいものだ。できれば自分で何台か動作確認用のパソコンを用意するのが望ましいが、できないなら身近にいる友達に試してもらったり、α版、β版として試験的な段階であることを明記してWebに公開して反響をみるなど、方法はいろいろあるはず自分だけの環境でちゃんと動いているからといって、ろくに動作確認もせず「as is(あるがまま)で公開しています」と宣言して放置するのは、ただの自己満足と言えないだろうか。有料・無料を問わず、インターネット上というパブリックな場に公開するということは、責任がともなうのだということを忘れないでほしい。

知らずにチャンスを逃さないために

 以上、“ビミョーな問題点”についておわかりいただけただろうか。こういったことには確かに違法性はないのだが、たとえばパソコン雑誌では記事紹介されなかったりCD-ROMに収録されなかったり、あるいはソフトウェアコンテストで選外にされてしまうといった一種の“自主規制”の対象になるおそれがある。もちろん対象にならないこともあるのだが、作者がそのような問題点を承知しておくことは大切だ。気付かずにいれば誰も文句を言ってこないまま、いつのまにか誰にも使われなくなってしまうことだってあり得る。

 そのほか、ソフトの本質と違うところでチャンスを逃すこともある。例えば添付説明書に雑誌への掲載条件をやたら厳しく書いてあるため、迅速な記事掲載ができない場合などがあげられるだろう。またユーザーの立場で言えば、いきなり起動できないなど第一印象が悪かったソフトは、たとえその後バージョンアップで改善されてもなかなかもう一度ダウンロードして使ってみようという気にはなりにくい。このようにちょっとしたことで、せっかく手間ひまかけて開発されたソフトが広く普及するチャンスを逃すハメになるのは、あまりにもったいない話だ。

 これから自作オンラインソフトを公開しようという人には、上記のような問題がないかどうか、いま一度チェックするといいだろう。たとえフリーソフトでも、多くの人に支持されるためには、自己満足のレベルで終わらずに、何も知らない赤の他人が使うということをしっかり念頭において開発されるべきではないだろうか。といったところで今回の「よもやま話」は締めくくることにしよう。

(ひぐち たかし)

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