【第1回】

3ペイン型ウィンドウはユーザーインターフェイスの終着駅?

(01/01/15)

 新世紀も明け、今週からこの連載ではWindowsのオンラインソフトにまつわるさまざまな話題をとりあげ、あれこれと書き綴っていくことになった。フリーソフトやシェアウェアの紹介に限らず、現在のオンラインソフトをとりまく環境や素朴な疑問など幅広い範囲からテーマを選んで書こうと思っている。こういった連載コラムはこれまでの窓の杜にはなかったものだが、肩肘張らず気軽に読んでいただければ幸いだ。どうぞよろしく。

 さて、昨年を振り返ってぼくが気になっているのは、『3ペイン型のソフトが増えたなぁ』ということ。ペインとは、ウィンドウが境界枠でいくつかの領域に分割されているときの各領域のことで、おそらく英語の“pane”(窓枠、窓ガラス)に由来している。例えばエクスプローラのウィンドウは、左右に分割された左側がフォルダツリー、右側がフォルダビューになっているので2ペイン。メールソフトの「Becky!」は左側がフォルダツリー、右側は上下にメールリストとメールビューがあるので3ペインだ。「Outlook Express」は、最近のバージョンでは右側フォルダツリーの下に“連絡先”があるので4ペインということになるが、まぁ基本的には3ペインの仲間と思っていいだろう。

 昨年窓の杜でニュース記事になったメールソフトも、送信専用やケータイ向けといった一部の簡易型を除き、そのほとんどが3ペインだし、画像ビューワーでも最近主流になってきたサムネイル表示タイプのほとんどが3ペインだ。もはや随分増えたというレベルより、猫も杓子も3ペイン一色になってしまったと言っても過言ではない。もともとWindows標準ファイラーであるエクスプローラの2ペインウィンドウをベースに、ファイル内容のプレビュー領域を追加すれば3ペインになるのだから、世のオンラインソフトが3ペインというユーザーインターフェイスに行き着くのは考えてみれば自然なことだ。

 しかしちょっと待て。3ペインは本当に使いやすいユーザーインターフェイスの“終着駅”なのだろうか。果たして21世紀のオンラインソフトは、このまま3ペイン型に収束してしまうのだろうか?

3ペインの功罪

3ペインウィンドウの代表格「Becky!」
3ペインウィンドウの代表格「Becky!」
 ぼくはこの謎を解くカギが、インターネット常時接続と、最近流行のケータイメールにあると見ている。何事も“木を見て森を見ず”ではいけない。その前にまず、3ペインの長所と短所を整理しておこう。

 3ペイン型ウィンドウの良さは、1つのウィンドウだけでユーザーが見たい情報を一通り見られるという点にある。フォルダツリーの選択からファイル情報の一覧、ファイル内容のプレビューまで、3つに区分けされた1つのウィンドウ上で一連の操作が完結する。デスクトップにたくさんのウィンドウがバラバラに散らかることがなく、複数のウィンドウを見やすく並べかえたり移動させる必要もない。また、1つのウィンドウだけでたくさんのフォルダやファイルを一覧し、シングルクリックで次々と内容をプレビューできるというのは、フォルダやファイルを大量管理するときに便利だ。

 その一方、各ペインで一度に表示できる情報量が限られ、別ウィンドウを開いて表示するよりも早くスクロールが必要になるという欠点もある。スクロールしなければ全体が見えなくなると、見通しがきかずパッと見て目的のフォルダやファイルを見つけにくい。さらに1つのウィンドウを境界線で区切っているため、各ペインのサイズが隣接するペインによって制約を受けるというのも難点だ。とはいえ、その程度の短所なら長所が補って余りある。だからこそ3ペインはこれだけ広まってきたのだろう。

オンデマンドの時代

 さて、去年から今年にかけての世相を振り返ると、iモードに代表されるインターネット対応ケータイの爆発的ヒットがあげられる。そのおかげでぼくのまわりでもEメールに対する概念が確実に変わってきたように思う。あれだけ小さい画面と打ちにくいキー入力というユーザーインターフェイス上の二重苦があったにもかかわらず、いつでもどこでも手軽にメッセージのやりとりができるという大きなプラス要因のおかげで、ケータイメールはすっかり世の中に定着してしまった。ケータイで受けたメールは基本的にすぐ返信、遅くとも当日中には返信するといういわばICQなどのショートメッセンジャーソフトのような使い方が広まっていることに注目したい。実際ぼくも、ケータイメールは返事を書けばすぐに消去するため、数日前のメールを読み返すことはほとんどないし、メールを大量に貯めたり保存して管理するといった使い方はしない。

ケータイ画面は1ペイン(画像はiモードシミュレーターの「Pixo」)
ケータイ画面は1ペイン
(画像はiモードシミュレーターの「Pixo」)
 そう言われれば、パソコンで受けるメールのほうも、過去のメールを読み返すことはほとんどない。一応すべて残してあることはあるが、たまに過去の話題を正確に思い出すためキーワード検索して読み返すくらい。仕事上の大事なスケジュール連絡などはスケジュールソフトにデータを移すし、あとは“念のために”残してあるだけで、捨てるに捨てられない雑誌などと同じようなものだ。よく考えれば、メールが電話に取って代わったメディアだとすればこれは当然のことで、特別な事情でもない限り電話をいちいちテープに録音して貯めている人はいないのだから、電話のように手軽にメールがやりとりされるようになれば、メールをすべて残しておく必要はまったくないはずだ。

 メールに限らず、画像だって同じことだ。インターネットなどで集めた画像をたくさんHDDに保存している人は多いと思うが、一度集めた画像を再び見返して楽しむ時間と、インターネットで新しく画像を探し出して楽しむ時間と、どちらが長いだろうか。少なくともぼくの場合は後者。やはり一度見た画像はもう一度見ても新鮮味がないし、初めて見る新しい画像を次々と探し出すほうが楽しい。また、同じサイトにアクセスすればいつでも同じ画像をダウンロードできると思うと、最近はURLのショートカットファイルだけを保存して、画像そのものを保存しておくことは少なくなっている。

 これと同じことが、ぼくの場合はオンラインソフトの収集についても言える。昔はダウンロードしたLZHファイルやZIPファイルなどのアーカイブをすべてHDDに保存し、ジャンル別にフォルダに分けて管理していた。しかし、バージョンアップすれば結局古いアーカイブは削除するのだし、たとえHDDをフォーマットすることになっても窓の杜のライブラリや作者ホームページなどからもう一度ダウンロードすればいいだけなので、最近はダウンロードしたアーカイブはインストール後すぐ削除するようになっている。インターネット接続回線の高速化や固定料金制によってダウンロードにかかる時間も気にならなくなったことも大きい。

 つまり、インターネットの発達に伴って、個人個人がファイルや情報をHDDに蓄積する必要は、なくなりつつあるのではないだろうか。必要なデータを必要なときだけインターネットを介して随時やりとりして楽しむ。これこそまさに“オンデマンド”というわけだ。“オンデマンド”になれば情報の管理は情報提供者の側が行い、利用者が管理ツールをもつ必要はない。そこで話をずーっと戻すと、大量のデータを管理するために便利な3ペイン型ウィンドウは将来いずれすたれていくということが、容易に想像できないだろうか。

3ペインの次にくるものは?

 それではこれからの21世紀、ソフトウェア業界におけるユーザーインターフェイスの主流はどうなっていくのだろうか? そこにはキーワードとして「複合」「単純」「連携」の3つを個人的に挙げておきたい。つまり、現在あるいくつかのユーザーインターフェイスが状況に応じて組み合わさる複合化の可能性、同じ画面上でできる操作を少なくする単純化の可能性、さらに他のソフトやケータイなど外部デバイスとの連携を前提にしたユーザーインターフェイスになる可能性、という3つだ。

 しかしこれ以上あまりハッキリしたことはあえて書かないでおきたい。想像こそが人間の最大の力である、といったことを偉人の誰かが言っていたような気がしないでもないが、ともあれ先入観をもたずにいろいろと想像を膨らませることは、よりよいものを生み出す原動力になる。あとは読者各人の想像にお任せして、これからのオンラインソフトがどういったユーザーインターフェイスを採用して進化していくのか、ぼくも一ユーザーとしてじっくり見守っていきたいと思っている。新世紀最初のよもやま話は、この辺で終わりにしよう。

(ひぐち たかし)

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