後藤智博のダンスミュージックStudio


【第5回】

サンプリング可能なMODで、ダンスミュージックの本領発揮?

(00/02/18)

 ひさしぶり! みんな曲作ってる? さて、オンラインソフトでダンスミュージックを作ろうというこの連載、前回まではMIDIでの作曲方法を紹介したけれど、何か物足りないところがあった。気づいている人もいるだろうけど、MIDI音源のみを利用する作曲では、ダンスミュージックの作曲で一番楽しい部分とも言える、音を取り込む“サンプリング”が使えない。この問題をクリアできるファイル形式がMODなんだ。

 オーディオ信号をデジタイズしてパソコンに取り込んだ“サンプリング音色”を使うと、例えばイヌの鳴き声を取り込んで音階として演奏させたり、歌を取り込んで逆回転にしたりと、録音した音とパソコンでの音色フィルターの組み合わせで様々な音色表現が可能になる。もちろんダンスミュージックの世界でも過去に発売されたソウルやリズム&ブルースのレコードから数小節を抜き出してヒップホップの曲を作ったり、電話の交換士の声をそのままリズムにのせたりという“フレーズ・サンプリング”のテクニックを多用して、コラージュ感覚で曲を作っていく人がたくさんいる。もちろん単に他の楽曲を“盗用”してるワケではなくて、耳に聞こえる音はすべて楽しんでしまおう、という自由な気持ちを表してるんじゃないかな。

 今回からは、自分の好きなサンプリング音を手軽に楽曲に組み込むことのできる音楽ファイルフォーマット「MOD」について紹介していきたいと思う。第一回として、MOD誕生の歴史とMODの再生プレイヤーについて説明する。

音源も内蔵したMODの登場

 1980年代、MIDIの誕生と音楽機材のデジタル化にシンクロしながら、テクノポップなどのニューウェーブ音楽ブームが起こり、長く続いたロック黄金時代に一石を投じた。テクノポップでは、バンドにはドラムとベースとヴォーカルがいて、汗をかきつつ演奏してるっていう、それまで当たり前とされていた感覚を裏切るかのように、リズムボックスによる単調なリズムを延々と聴かせたり、演奏者が登場せず、代わりにロボットをステージに置いたりなどという実験的な音楽が発表され続けた。そして一部のミュージシャン達はそれだけでは飽きたらず、パソコンを核としながら映像と音楽をシンクロさせるなど、より実験的なパフォーマンスを目指すようになる。彼らの活動を支えていたのが、AtariやAppleなど映像や音楽に強い海外のパソコンだった。

 そんな世の風潮を反映してか、当時のパソコンの世界ではプログラミングの腕くらべとして、パソコンの性能を限界近くまで使いながらカッコいい映像と音楽をデモンストレーションできる「DEMO」というプログラムをつくることが流行りだす。そんな背景の下、1985年にコモドール社が「AMIGA」というパソコンを発売。独特のカスタムチップを採用した映像・音声処理は当時としては画期的で、数年前まではテレビ局などで現役で使われていたほど。DEMOの作者たちは当然のようにAMIGAに目を付け、AMIGA上でのDEMO作りは大ブームになる。映像やら音声やらってのは凝れば凝るほど容量が増大していくけど、プログラマーたちはAMIGAで使用されていた約1メガバイトのフロッピーにDEMOが収まるよう工夫を凝らした。そしてDEMOは、いつしか「MEGADEMO」と呼ばれるようになっていた。

 「少ないファイル容量の美しい音楽」を実現するために、DEMOの作者たちはAMIGA用の「SoundTracker」っていうソフトで実現されていた音楽フォーマット「MOD」を使うようになる。MODは、サンプリング音色を細かい単位で記録して楽譜のデータと一緒に保存する、というフォーマット。大ざっぱに言うと、MIDIファイルにサンプリング音源データを追加したような感じかな。だからMIDIの場合はソフトかハードのMIDI音源が必要で、MIDI音源ごとに音の感じが違うけど、MODの場合は音源自体をデータファイルの中に持っているってこと。この方法なら、もちろんMIDIとくらべると容量が大きくなっちゃうけど、音源のデータを一緒に保存しているぶん、違う環境のパソコンでもある程度の再現性が期待できる。パソコンの性能とプログラマーの技術を圧倒的にカッコよく見せつけるMEGADEMOと優れた音楽フォーマットであるMODは、コモドール社が倒産してしまった現在も根強い人気を誇っている、というワケ。

MODの種類はたくさんある

 さて、ひとくちに「MOD」と言ってもさまざまな形式がある。これはMODのシーケンサーソフトにあたる様々なトラッカーソフトが、それぞれ独自に発音数や音質などのフォーマットを拡張していったからなんだけど、現在主流と言われているモノはMOD、S3M、XM、ITの4種類。中でも「MOD」は同じ拡張子でも色々な形式があって、最も基本的なモノは「SoundTracker 2.4」で採用されたAmiga標準のMODファイル。4トラック、つまり4音色の同時発音が可能で、ファイルの中に用意しておける音色は31音色、サンプリングビットは8bitなので、AMラジオ程度の音質で再生が可能。

 その後、16トラック・99音色まで拡張された「S3M」、32トラック・128音色、CD並の16bitサンプリングを採用した「XM」、64トラック・99音色、16bitサンプリングにレゾナンスフィルターなどの効果コマンドを備えた「IT」とMODの進化は続いていく。

MODの再生は「ModPlug Player」におまかせ!

 さて、主流のMOD、S3M、XM、ITの4種類をはじめとして、現在利用されているほとんどのMODファイルを再生できる定番MODプレイヤー「ModPlug Player」を使って、MODファイルのサウンドを聴いてみよう。ファイルの特長を活かしたサウンドも作ってみたから、Webで見ている人もメール版で読んでいる人も、Web上のサウンドアイコンをクリックして、サウンドをチェックしながら感じをつかんでほしい。

「ModPlug Player」  「ModPlug Player」ではZIP形式に圧縮してあるMODファイルをそのまま開くことができるので、ダウンロードしたZIPファイルをModPlug Playerの画面にドラッグ&ドロップするだけで再生できる。[低音増強][リバーブ][サラウンド]などのエフェクターも使えるし、これさえあればMODの再生はすべておまかせって状態。ぜひインストールしておこう。再生時にプチプチとしたノイズがのっちゃう場合なんかは、自分のマシンにあった設定を探してみよう。

【ソフト名】ModPlug Player
【著作権者】Olivier Lapicque 氏
【ソフト種別】フリーソフト
【バージョン】1.42.01(00/02/11)

□MODPLUG.COM - MODPlug Central / Castle X
http://www.modplug.com/
□窓の杜 - ModPlug Player
http://www.forest.impress.co.jp/library/modplugplayer.html

MODファイルを聴いてみよう

 試しにトラッカーソフトを使って、4種類のMODファイルを作ってみた。予想以上に形式ごとの特長があるので、作り込めばもっと違いが出せそうだ。実際にダンスミュージックを作るときは、XMにするかITにすれば高品質なものができるけど、MODやS3Mの8bit音もコンピューターミュージックとしては魅力的。いろいろ作曲して聴いてみて、自分の求める音楽に合ったMODのファイル形式を見つけだそう。

MOD S3M XM IT

 まずはMOD形式のサンプル。8bitなのでリズムにノイズがのった感じになっちゃうけど、MODはここから発展していった。同時発音4トラックってのは今となっては少しきついけど、音色数が31あるのでダンスミュージックの作曲には充分。

 そしてS3M形式。同時発音数がMOD形式の4倍の16トラックに増えたおかげで、複雑な曲も作れるようになった。FM音源とか16bitサンプリングを使える発展型のトラッカーもあるんだけど、まずは基本的なフォーマットで作曲してみた。

 続いてXM形式。16bitサンプリングが採用されて、CD並の音質で再生することが可能になった。MODやS3Mに比べると、明らかにサウンドがクリアに聞こえるでしょ。同時発音数32トラック、音色数が128と、もうほとんど使い切れないほど多いレベル。

 最後にIT形式で、ベースがビコビコ鳴ってるのが特長だ。たとえば「ボコボコ」っていう音が「ビキョビキョ」っていう具合に変化させられる“レゾナンスフィルター”をイジりながら短いベースフレーズをループさせるタイプの曲は、かなり燃えるよね。レゾナンスフィルターの変化をMP3ファイルにしてみたから試しに聞いてみて。

レゾナンスフィルター♪

 さて、次回からはいよいよMODファイルでの作曲に挑戦していく。サンプルを聴いてもらえればわかると思うけど、MODではソレっぽい雰囲気の楽曲が手軽に作れるのでぜひ挑戦してほしい。また、自作のMODファイルを公開している人は世界中にたくさんいるので、いろんな作品を探して聴いてみるのも勉強になるかも。では、Keep on music!

後藤 智博


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