後藤智博のダンスミュージックStudio


【第1回】

「てきとーシーケンサ」でお気軽コンポーズ

(00/01/07)

 ダンスミュージックと言えば、なんデスか? ヒップホップ? テクノ? ダンスクラシックの再ブーム? このまえ見つけたネットアイドルのページで、お気に入りのあの子が好きだって書いてたなあ…なんて感じに、いつの世も人気の音楽ジャンル。そのループ感の強い曲調は、ジャズやクラシックなどに比べて、パソコン上での製作に最も向いている音楽だ。難しい音楽理論や演奏技術なんて必要ナシ。気合いと勢い、あとはノリだけあれば大丈夫。

 テレビや雑誌で見る音楽スタジオには、最新のノートパソコンが何台も購入できるほど高価な機材が山積みされてるけど、大事なのは機材よりもアイデア! この連載では基本的にオンラインソフトとあなたが今使っているパソコンのみで、ダンスミュージックをビシッと作りこんでいこう。ハードやソフトの制約を創意工夫で乗り越えてこそ、面白い曲ができるってもの。世界一のミュージシャンになったつもりで、調子にのっていこう。

 今回から全10回にわたってダンスミュージックの製作手順を紹介していく。前半はパソコンでの曲作りにおいて絶対無視できない「MIDI」について解説して、MIDIでの作曲をしていく。その後は、世界中にマニアックなファンを持つ「MOD」での曲作りについて、深く掘り下げていくつもり。サウンドも盛りだくさんで進めていくから、Webで見ている人もメール版で読んでいる人も、Web上のサウンドアイコン()をクリックして、サウンドをチェックしながら感じをつかんでほしい。さあ、レッツスピン!

MIDIってなあに?

 インターネットでもカラオケでも、あちこちで耳にする「MIDI(ミディ)」。どういう意味か知ってる? これは、「Musical Instrument Digital Interface」の略で、電子楽器同士で情報をやりとりするための統一規格。1982年に世界各国の電子楽器メーカーによって提唱された。その後、世界の音楽のデジタル化が加速されていったのは、MIDIのおかげと言っても過言じゃない。

 MIDI登場前は、音程や音色をすべて電圧の変化によって伝えていた。この方法は、簡単なのはイイんだけど、磁気の影響やケーブル自体の抵抗から音質の劣化が避けられない。それに、音声信号ってものは実は情報量が膨大で、取り扱いに不便。だから音声信号をそのままデジタイズしても、650MBも入るCDメディアに約74分しか記録できないのがその証拠。

 対してMIDIは「ピアノの音でドレミを弾け」「バスドラムを1分間に120回叩け」なんて具合に、5ピンの専用ケーブル(MIDIケーブル)で繋いだ機器同士で、楽譜の情報のみをデジタルデータとしてやりとりする方式。楽譜情報は「MIDIシーケンサー」という専用機器、またはパソコン用の「ソフトウェアMIDIシーケンサー」に集められる。そして、シーケンサーからシンセサイザーやリズムマシン、サンプラーなどの「音源」を制御する、という使い方をするワケ。100個の楽器があろうとも、作曲者はシーケンサーの前にいるだけでケーブルに繋がっている全ての楽器の音を出すことができる。この方法だと、ケーブルの質による音質の劣化なんてのは考えられないし、なによりも楽で便利に曲作りができちゃう。

 カタカナが多くてよくわからない? うーん、簡単に言うと「MIDIシーケンサー」ていうのは、音符やグラフなどで表された楽譜の情報を記録・編集したり、MIDI音源を発音させたりし、そしてもちろんMIDIファイルとして保存したりもできる、五線譜と演奏者が一緒になったような機械またはソフトのこと。パソコンでよく使うコピー&ペーストや、ループ再生なんかもできちゃうし、間違えたらアンドゥで取り消せばいい。なにより、作曲の途中段階で何度でも演奏しなおせるから、五線譜を前に各楽器のアンサンブルを想像しながら作曲、なんてモーツァルトがやっていたみたいな曲作りはもうしなくてもイイってこと。

 さて、MIDIのデータの中には「ピアノで弾け」「ドラムを叩け」という指示は入っているけど、実際にピアノの音色やドラムの音色が含まれている訳じゃない。だからデータは非常に小さく、また、同じ音源を用意しておけば、パソコンの機種が違うとか、別の環境でも同じ音楽を流すことができる。小さなデータできれいな音楽…もちろん、インターネットの世界が放っておくハズないよね? 最近のサウンドカードならまず間違いなくMIDIを再生できるので、WebブラウザーなどでもガシガシとMIDIファイルが再生できるなんてことは、説明するまでもないかも知れない。これを読んでいる人の中には、素材ページから入手してきた著作権フリーのMIDIファイルを自分のサイトで流している人も多いんじゃない? せっかくだからこの際、オリジナル曲を作っちゃいましょ。

「てきとーシーケンサ」で作曲をしてみよう

テンポを144にしよう  「てきとーシーケンサ」は、MIDIファイルを手軽に作成できるシーケンサーソフト。ソフトの機能は単純だけど、そのぶん簡単に覚えられるようになっている。

 まずは“tsq.exe”を起動しよう。新規ファイルを作成すると2つのダイアログが出るけど、とりあえずデフォルトでOK。でも、テンポ120ではちょっと遅いから、[設定]-[曲の設定]で、テンポを144くらいにしてみようか。この「テンポ」というのは「1分間に四分音符が何回鳴るか」という数値で、「BPM(beat per minute)」なんて呼び方をすると、良く行くレコード屋の気になる店員のお姉さんも、惚れ直してくれるかも。あ、他にも、曲名くらいは決めないと寂しいかな。

 さっそく曲作りに入ろう。ダンスミュージック、特にテクノなどのエレクトリックなジャンルでは、いかに他人の思いつきそうにない奇天烈な音色やフレーズをループさせて気持ち良く聴かせるか、なんてことに情熱を燃やす作曲者がたくさんいる。内蔵のソフトウェアMIDI音源では音色数が限られているけれど、その制約の中でどれだけ変わったフレーズを作れるか、挑戦してみよう。

各パートの楽器を選択  「てきとーシーケンサ」での作曲作業は、基本的には上段左端の上下の矢印で16個のパートのうちからひとつを選び、五線譜をクリックして音符の長さをあらわすバーを置いていくだけ。間違えて置いてしまった場合はダブルクリックで消えるので、片手でも作業できてラクラク。それぞれのパートの音色は、[設定]-[パートの設定]から選ぼう。F5キーを押すと演奏ウィンドウが現れ、緑色の再生ボタンを押すと曲が再生される。五線譜上でバーが置いてある所のみ発音されるから、バーが置かれていないところは自動的に“休符”になってくれる。作曲するときって音符はまだしも、休符って結構ややこしい。でも、このソフトならそんなこと気にしなくてもOK。

 さて、ダンスミュージックのキモはリズム! プロの世界でも、ドラムのパートから作曲していく人が圧倒的に多い。リズムのパートを編集するには、画面左上にある上下の矢印から、「パート:10」を選ぼう。音色が「Piano1」となっているけれど、パート10はリズム専用なので、ここは気にしなくても結構。そして、リズム専用パートに限って、五線譜は音階ではなく音色を表すので注意ね。「レ」がコンガ、「ラの#」がマラカスといった具合に。音色の対応表はヘルプから参照できるので、あらかじめチェックしておくとイイかも。バスドラムは「ド2」、2オクターブ下のドの位置に音符を置こう。そして、演奏ウィンドウを出して再生。音は鳴った? この調子で、スネアドラム、ハイハット、その他のリズム音なども置いてみましょ。

リズムパート♪

 次に、ベースパートを作ろう。[設定]-[パートの設定]で、パート1に音色を割り当てる。素直にベースの音色を選ぶのもいいけど、置いたバーからは予想できないような音程のサウンドが面白いギターのハーモニクス「032.Gt.Harmonix」を低音で利用してフレーズを作ってみた。

リズムパート&ベースパート♪

リズムパートでバスドラムを使う  そして、上モノ製作。インドの楽器「105.Sitar」を低音で鳴らすとブヨブヨと面白い音になった。その他「007.Harpsichord」「014.Xylophone」など金属的な音色を味付け程度に使ってみよう。それぞれパート2、3、4に割り当ててフレーズを作る。音程によって、特に超低音や超高音では音色のイメージがかなり変わるので、それを利用して面白いフレーズを作成するのがミソ。和音とか知らなくても、適当にね。

すべてのパートを合成したフレーズ♪

 さて、曲が完成したら、念願のMIDIファイルへの書き出し。[ファイル]-[MIDIファイルを作成]で保存。「てきとーシーケンサ」ではMIDIファイルの読み込みができないから、専用の保存形式「.tsq」で保存しておくのも忘れないように。MIDIファイルでしか保存してないと、あとで修正したくなったときに途中から編集することができなくなるから気を付けよう。完成したMIDIファイルは、ダブルクリックで聴くこともできるし、ホームページ上で鳴らす事もできる。もちろん、他のシーケンサーで開いて再利用することだってできちゃう。これこそ、世界標準の強みってトコ?

「てきとーシーケンサ」のココがいい

 今回使った「てきとーシーケンサ」は、マウス操作のみでほぼすべての作曲作業ができるし、基本的なシーケンサーの機能は一通り揃えているので、MIDIでの作曲はどういう手順で行うのかを覚えるにはうってつけだろう。他のシーケンサーの中には、フライトシミュレーターみたいにキーをたくさん使うゲームよりも、さらに多くのショートカットを覚えなきゃいけないモノが結構あって、操作方法に悩んで“ひらめき”をそのまま表現するのが難しくなっていることも確か。その点「てきとーシーケンサ」は、頭に浮かんだフレーズをとりあえず音にしてみるとか、簡単な楽曲作成にはすごく向いてるんじゃないかな。音符や休符の概念がなく出したい音を出したい場所に指定するだけっていう、MIDIに関する細かい設定をすべてはしょれるところも、すごく好感が持てる。もちろん細かいMIDIの設定をツッコみたくなった時も、ある程度サポートが可能なところもGOOD。

【著作権者】大髪 氏
【ソフト種別】フリーソフト
【バージョン】1.2(99/3/1)

□Fagottistのホームページ
http://www.geocities.co.jp/Hollywood/7763/

 アイデア次第で面白いフレーズが作れるってこと、わかってもらえた? 来週からはもっと本格的なシーケンサーソフトを使って、じっくりと曲を作り込んで行こう。それまで「てきとーシーケンサ」で面白いフレーズを研究しておいてね。ダンスミュージック作曲のカギは、日常生活のいたる所にあるハズ。ホームでの電車の発車警告のチャイムとか、姪っ子の泣き声だってフレーズにしちゃえ。では、Keep on music!

後藤 智博

お詫びと訂正: 記事掲載時、第5段落の音声信号の記録についてわかりにくい表現がありましたので本文のとおり変更いたしました。お詫びして訂正いたします。


 記事中の楽曲は後藤 智博氏によるものです。著作権は、後藤 智博氏に帰属します。無断転用・転載は著作権法違反となります。必要な場合はこのページにリンクをお張りください。業務関係でご利用の場合は別途お問い合わせください。
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